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2016年12月25日 (日)

奥の細道を読む・歩く(116)

松嶋⑥

 

 対岸に着いて少し歩いてから雄嶋を振り返ると、砂浜の向こうの雄嶋は静かな海に松の姿を映していました

 駅に向かう途中に、江戸時代に建立された解脱院というお堂が、道の右手上にありました。駈け上って拝んでから駅に向かいます。線路は少し高いところを走っていて、駅のホームらしいものも見えています。

 JR仙石線の松島海岸駅前はひっそりとして観光客の姿はほとんどありません。観光船の松嶋桟橋のあたりの賑わいとは格段の差があります。旅館や船の案内所もあるのに人影が乏しく、松嶋の玄関口とは思えない有様です。「ようこそ松島へ」という看板がうつろに見えます。

 駅前の芭蕉庵という名の食堂では、注文に応じて、高齢の男性がうどんを作ってくれました。客が来ないと嘆いています。私たちの前に客はなく、私たちの後に2組の客が入ってきました。

 さて、「奥の細道」の文章は、「江上に帰りて宿を求れば、窓をひらき二階を作て、風雲の中に旅寝するこそ、あやしきまで、妙なる心地はせらるれ。

   松島や鶴に身をかれほとゝぎす   曾良

 予は口をとぢて眠らんとしていねられず。旧庵をわかるゝ時、素堂松島の詩あり、原安適松がうらしまの和歌を贈らる。袋を解て、こよひの友とす。且、杉風・濁子が発句あり。」と表現しています。

 私たちも、風通しのよい宿の2階の部屋から松嶋の広々とした眺めを見たいと思いますし、月の松嶋にも引かれるのですが、今宵の宿は松嶋ではありません。

 芭蕉は自分の句作を書くことをしないで、曾良の「松島や鶴に身をかれほとゝぎす」を紹介しています。折から空をほととぎすが鳴き渡っており、その声は感慨深いと思うが、この大きな景色の中ではほととぎすの姿のままではふさわしくないので、できれば鶴の姿を借りて、鳴き渡ってほしい、という意味です。松嶋で芭蕉が作った句として「島々や千々に砕きて夏の海」が伝えられていますが、いささか説明的で、芭蕉の気持ちに満たなかったのかもしれません。

 芭蕉は携えてきた山口素堂の漢詩、原安適の和歌などをひもといて、夜の時間を過ごします。「奥の細道」最大の目的地のひとつである松嶋の句がないのは、読者としては残念ですが、この景色に対峙できる句を作るのはたいへんなことなのでしょう。

 私たちは松嶋で泊まらないで、仙石線で石巻に向かいます。高城町駅で乗り継いで、松島湾から石巻湾へと変わりゆく海景を眺めますが、野蒜駅や陸前赤井駅や蛇田駅などのあたりは大震災の津波で浸水被害を受けたところです。ときどき車窓をかすめる湾は、少し曇った空のもとで、ことのほか静かに見えます。

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