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2017年3月 1日 (水)

ところ変われば… (1)

食べ物「一式」

 

 「ところ変われば…」という連載を始めます。言葉についての話題が多くなるかもしれませんが、風俗、習慣、文化、その他いろいろのことを書いていきます。

 東京の一極集中が続いています。人口だけの問題ではありません。ものの考え方や感じ方すら、中央集権のきらいがなきにしもあらずです。こんなことで良いはずはありませんが、「ちょっと待てよ」という疑問の声すらかき消されてしまいそうな勢いです。地方分権とか「ひとりひとりを大切に」とかいうのは、単なるキャッチフレーズのようです。東京はすべての発信基地でなければ気がすまないという、重い病にかかってしまつているのではないでしょうか。地方を見る目が失われたときに、中央の破綻が始まっているのです。

 

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 朝日新聞の土曜特集版「be」に、「街のB級言葉図鑑」という連載があります。2月25日の記事は、「一式」という言葉を話題にして、「関西などの食堂でおなじみ」という見出しが付いていました。

 「麺類丼物定食一式」というような言葉遣いについて述べているのです。筆者は「これは私にとっては珍しい表現です。」と書いています。

 食べ物について「一式」と言うのは、このブログを書いている私にとっても、珍しい表現であり、違和感を持った表現ですから、何年も前にこのブログで、写真とともに文章で紹介し、意見を述べました。

 この文章の筆者は、「麺類丼物定食一式」を「関西でおなじみ」の言葉であると言っているのですが、そんなにあちこちで目にするものではありません。東京には無くて、関西には(稀に)有る、という程度のものです。

 「一式」は道具や品物について言う言葉であって、食べ物にはそぐわないというのが、たいていの人の基本的な感覚だと思います。

 その上で、私がこの言葉に違和感を覚えたのは次のような理由からです。例えば、「貸衣装一式」という場合は、和服そのものだけでなく、帯や足袋やその他のものを含めた一揃いという考えができます。けれども、「麺類一式」や「丼物一式」として、いくつもの麺や丼を並べられたら困ってしまいます。ひとつの丼と味噌汁と漬け物を合わせて一式と言っているわけでもないと思います。「貸衣装一式」の中にはいくつもの物が含まれますが、食べ物の場合はいくつものうちの一つしか食べないことがあるのです。

 これは言葉の地域差としての違和感ではなくて、ひとつの言葉の使い方としておかしいという思いなのです。

 この「街のB級言葉図鑑」は東京の人の感覚で書かれています。食堂で使う「一式」という言葉に違和感を持って調べたようで、関西だけでなく中部・九州・沖縄でも例があると述べて、文章の最後は、「食堂の看板の定型表現にも『気づかれにくい方言』があるということが、これで分かりました。」と締めくくっています。つまりこれを方言としてとらえているのです。

 東京で使わないから方言だ、東京の用法と異なるから方言だ、とまでは書いておりませんが、何とはなしに、ある地域特有の珍しい言葉だという視線を感じてしまいます。

 「街のB級言葉図鑑」というタイトルには、連載が始まった最初から馴染めませんでした。B級グルメなどという言い方があるのは知っていて、違和感はありません。高級な材料を使っていない、価格は低い…などという違いを「B級」という言葉で表しているのです。

 それに対して、言葉にはA級もB級もありません。それが古くから使われている言葉であれ、流行語や隠語であれ、言葉の価値に差はありません。書物の中に現れることが多い言葉であっても、町中で見かけることが多い言葉であっても、言葉の働きは同じです。言葉はランク付けするものではないと思います。「一式」は固い文章の中でも使われますが、それが町中で見られた場合は「B級」に格下げされるのでしょうか。

 

 さて、日刊新聞の全国紙は全国共通のニュースを載せながら、編集には地方(各本社)の独自性が見えます。とりわけ関西で発行している全国紙の夕刊の紙面は、関西の色合いを強く出していると思います。全国紙といえども「ところ変われば」ずいぶん違った印象の紙面を提供してくれています。嬉しいことです。

 ところが、土曜版とか日曜版というものは全く全国一律で作っているものが多いのです。朝日新聞の「be」は12ページに及ぶ全体が東京と同一です。記事を書いている人は全国のあちこちに住んでいるかもしれませんが、紙面は東京のものの考え方で作って、全国に届けているのです。東京感覚の押し付けであって、「ところ変われど」、品物は一律なのです。連載コラムも例外ではありません。

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