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2017年12月30日 (土)

じいさまはヤマへしばかりに -明石日常生活語辞典を作るということ-①

()私たちは方言を話している

 

 例えば、松谷みよ子・文、和歌山静子・絵の『ももたろう』(「松谷みよ子むかしむかし」シリーズ、2006年12月10日、童心社発行)という絵本の冒頭の部分は次のような文章です。

  むかし あるところに、

  じいさまと ばあさまが おった。

  じいさまは やまへ しばかりに

  ばあさまは かわへ せんたくに いったと。

 絵は、山間から流れてくる川で「ばあさま」が桃を拾う場面になっていますが、「じいさま」は山道をたどっていく後ろ姿になっています。その山は柔らかいタッチで描かれていますが、それなりの高さを感じる山です。

 ところで、この「じいさま」は山を登って「しばかり」に行ったのでしょうか。「やま」とはどういう場所のことでしょうか。

 「しばかり」という言葉を聞いて幼児がどのようなイメージを描くかということも、興味深いことです。「しばかり」という言葉からは、幼児たちは、山野に生える丈の低い雑木を刈り取る「柴刈り」を思い浮かべるのではなく、庭園などに植えられて地面をはうようになっている芝生を刈り揃える「芝刈り」をイメージしてしまうかもしれません。

 私にはときどき、方言について話をするようにという機会が与えられますが、話の導入のようなことを語り始めて、しばらく後に、「私は、いま、どのような言葉で皆さんにお話ししているでしょうか」と尋ねることがあります。初対面の方々を前にして話をすることが多いのですから、丁寧な言葉遣いをしているのですが、この質問に対しての答えは、「標準語で話している」「共通語だ」「方言や」などとさまざまな答えが返ってきます。現実には、私は方言でしか話ができません。

 続けて、「方言だけを使って話をすることは可能でしょうか」と問いかけると、「それは無理や」というつぶやきが聞こえてきます。空や海や石のことを別の方言で表現する地域はあると思いますが、私の住む地域では「そら」「いし」「うみ」と言うのが一般的です。けれども「そら」「いし」「うみ」は方言ではないと言ってよいのでしょうか。

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