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2018年3月18日 (日)

『おくのほそ道』の旅【集約版】(1)

  はじめに

 

 「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらへて老をむかふる者は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に白川の関こえんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸すうるより、松嶋の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、

   草の戸も住替る代ぞひなの家

 面八句を庵の柱に懸置。」

 月日は永遠の旅人であるということには同感です。けれども、文頭はやや抽象的な表現ですから、景色のようなものが眼前にあらわれてくることがありません。月日は旅人だとは思いますが、その年が行き交っているというような印象を私は抱きません。四季は繰り返したり、行きつ戻りつしたりしますが、時間とは一本の棒のようなものが過去から未来へ続いていくように感じています。私たちは、流れ行く時間の中を、やはり流れるように生きている存在であると思います。

 今の時代でも、外航船に乗って仕事を続けている人がいますし、バスやトラックを運転して全国を走り回っている人がいます。まさに旅を住みかとしている人たちです。

 ところが私は定住人間です。ふだんの生活では、先祖代々が住み続けてきた土地の一住民に過ぎません。長い人生の大半は勤め先を持ち、自宅を拠点に通勤をしました。

 けれども、ひとたび歩きはじめると、旅人という意識の中に身を置きます。『おくのほそ道』をたどって歩きますが、そのときは旅をする人間、すなわち歩く人間です。たとえ3泊4日ずつであっても、五街道のときと同じように、旅を住みかとする時間を過ごそうと思います。

 芭蕉の言う古人が、西行、宗祇、杜甫、李白などを指すことに疑いはありません。旅が苦しい営みであった時代に、旅をした人たちです。死と隣り合わせの旅であったというのは誇張ではありません。

 今の時代は、路傍で野垂れ死にをすることはありません。仮にそれを望んでも、そんなことは許されません。救急車が飛んできて病院へ運ばれてしまうでしょう。

 むしろ私は、旅を続けて、旅を続けている期間の或る日に人生最後の日を迎えることを望んでいます。最後の日の直前まで、どこかを歩いていたいと願っています。

 芭蕉は「鹿島紀行」「笈の小文」「更科紀行」などの続きとして『おくのほそ道』の旅に出ています。私たちは江戸時代の五街道を歩き終えた続きとして『おくのほそ道』をたどります。

 関西に住んでいますと道端に道祖神を見ることは稀なのですが、五街道を歩いて数限りない道祖神を見てきました。けれども私は、旅に招いてくれるのは道端の道祖神というよりは、空のかなたの無数の神の手招きであるように感じています。

 芭蕉ほどの健脚ではありませんが、長い長い街道を歩き通したという自信はあります。いつも飲んでいる薬を忘れないように持ちますが、いざに備えるのは救急絆創膏とテーピング用品ぐらいのものです。何かを忘れても道中で購入できる気安さは、芭蕉の時代とは異なります。

 芭蕉は旅に出るに際して芭蕉庵を手放します。「住み替る代」として、人も物もすべて変転していくということを感じ取っています。後に住む人が市井の人であるのに対して、自分はこれまで以上に俳諧の世界に踏み入っていくのだという思いを強く持っているのでしょう。

 現代に生きている私たちは住居はそのままにして、4日間の留守だけです。何とも気ままな旅で、芭蕉には申し訳ないと思います。どれ一つとっても、芭蕉の時代の困難な旅とは対極にあるように感じますが、移動には鉄道・バスを利用するとは言え、それぞれの場所では自分たちの足だけを頼りにして歩き続けたいと思います。

 

  『おくのほそ道』旅の一覧

 1回 2016 4月13  4月16

  深川から鹿沼まで 泊…千住、小山、栃木市

 2回 2016 5月 8日  5月11

 日光から殺生石まで 泊…日光、黒羽、黒磯

 3回 2016 6月 6日  6月 9日

 遊行柳から郡山まで 泊…白河、白河、須賀川

 4回 2016 7月 4日  7月 7日

 安積山から伊達の大木戸まで 泊…郡山、飯坂、福島

 5回 2016 9月 5日  9月 8日

 白石から多賀城まで   泊…白石、仙台、仙台

 6回 201610 4日  10 7日

 塩竃から平泉まで 泊…塩竃、石巻、新田

 7回 20161025  1028

 岩出山から大石田まで 泊…鳴子、赤倉、尾花沢

 8回 20161122  1125

 山寺から象潟まで 泊…山形、酒田、酒田

 9回 2017 3月28  3月31

 酒田から新潟まで 泊…酒田、新潟、新潟

10回 2017 4月23  4月26

 高田から奈呉の海まで 泊…高田、富山、富山

11回 2017 5月22  5月25

 倶利伽羅から汐越の松まで  泊…金沢、金沢、小松

12回 2017 6月26  6月29

 山中温泉から敦賀まで 泊…山中、福井、敦賀

13回 2017 7月24  7月27

 出羽三山と鶴岡 泊…羽黒山、湯殿山、鶴岡

14回 2017 8月30  8月31

 大垣と伊賀上野 泊…岐阜

15回 2017 9月26  9月29

  補遺の旅(登米・最上川)   泊…登米、新庄、新庄

 

 

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