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2018年5月 7日 (月)

言葉の移りゆき(20)

「しれっと」の意味と用法

 

 「しれっと」という擬態語は、私にとって、守備範囲(文脈に応じて使いこなせる力)がありません。歓迎すべき内容を言っているのではなかろうという印象は持ちますが、細かな意味・用法はわかりません。

 

 あの「2年程度」は何だった。日銀が6度も先送りした「物価上昇率2%」の達成時期を、しれっと削除した。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年5月1日・夕刊、3版、1ページ、「素粒子」)

 

 私が勝手に、この言葉から得られる語感を述べると、〈周りに内緒にしておいて、そしらぬ顔をしている〉、〈周囲の人の思いなどを無視して、冷淡に動いている〉というようなことです。

 試みに『広辞苑・4版』を開いてみると、「他からの働きかけにも動ぜず平然としているさま。何事もなかったかの如く振舞うさま。」とだけ書かれていて、用例がありません。

 かえって、小型の国語辞典の方に用例が出ています。

 『明鏡国語辞典・初版』は、意味を「何事もなかったように平然としているさま。」として、「不始末をしでかしながら-している」という用例を載せています。歓迎すべきでないことのようです。

 『新明解国語辞典・4版』は、「何か有ったあと、その事に気を取られたりしないで、ふだんの態度を失わないことを表す。」として、「どんなに大酒を飲んでも-している」という用例です。この意味・用例は、むしろ称賛すべきことのようにも見えます。

 『三省堂国語辞典・3版』には興味を引かれます。〔もと海軍の俗語〕と書いてあって、「平気なようす。なんとも思わないようす。」として、「どんなに大酒を飲んでも-している」という用例では、『新明解』と一致しています。

 一方、『岩波国語辞典・3版』、『現代国語例解辞典・2版』には見出し語がありません。「しれっと」は新しい言葉で、これから広がっていく言葉なのでしょうか。

 

 〔もと海軍の俗語〕という注記に触発されて、『日本方言大辞典』を見てみます。「しれっと」は「しろりと」を見るようにと、矢印が施されています。そこで、「しろりと」を見ると、(その言葉が使われている地域名は省略しますが、)次のような意味が列記されています。

 ①平然として知らん顔しているさま。

 ②にやりと笑うさま。

 ③人の様子をうかがうような卑屈な目つきをするさま。

 ④ぶしつけに見守るさま。じろじろ。

 ⑤人の気配がしなくなって寂しいさま。

 ⑥全く。

 ⑦いっそ。

 ⑧始終。しょっちゅう。いつも。

 それぞれの意味で使う地域は異なっているのですが、国語辞典(共通語)の「しれっと」は上記の①の意味に重点が置かれています。日銀は〈これまでの約束などには目もくれず、平然と、①〉削除に及んだのでしょう。

 それだけではなく、日銀は〈内心は不敵な笑みを浮かべて、②〉、〈わずかに国民の様子をうかがいながら、③〉、〈あまりにもぶしつけに、④〉に、達成時期を削除したのかもしれません。そんなことをしていると、〈国民の気配がなくなって、日銀が孤立してしまう、⑤〉ことにならないとも限りません。

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