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2018年5月15日 (火)

言葉の移りゆき(28)

技術者の「凄腕」、記者の「凄腕」

 

 マスコミは数字が好きです。まるで数値の多寡が人間の価値を決めるかのように、数字にこだわった記事や番組を多く見かけます。驚くような数字を提示して読者や視聴者を仰天させたいという魂胆も透けて見えます。

 

 開発したコーンの生産数 年間約2200万個  日世 コーン生産部技術開発課 大和田勉さん(54)

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年5月7日・夕刊、3版、2ページ、「凄腕つとめにん」、千葉卓朗)

 

 上記の引用は、見出しに当たる部分です。数字はゴチック体で大きく書かれ、この数字が「凄腕」の証であるかのように書かれています。しかも、この数値は、紹介された個人の手腕であるかのような印象を与えるように仕組まれています。本文には「コーンの開発一筋で、これまで200種類以上に関わってきた。開発した主なコーンの年間生産数は約2200万個にのぼる。」と書いてあります。〈コーンの型を200種類以上開発〉と書くと迫力が失せてしまうのでしょう。実際の生産に携わるのは別の現場の人ですが、紹介する人の「凄腕」を強調するためには、この人に2200万個という数字を被せしまうのです。2200万個というのは、昼夜休まず働くとして、1.4秒に1個の割合で作るということなのです。現実の問題を除外して、特定の人の手腕として、大きな数字を付与する意図を持った記事ですが、この連載は長く続いています。

 さて、同じシリーズの別の記事を、上記と同様に、見出しに当たる部分だけ引用します。

 

 栽培に関わるジャガイモ ポテチ年4万5千袋分  カルビーポテト フィールドマン 桑原萌さん(32)

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年4月16日・夕刊、3版、2ページ、「凄腕つとめにん」、筒井竜平)

 

 本文には、「農家にポテトチップスに使うジャガイモづくりを指導する。肩書は『フィールドマン』。65人を担当し、年間1万トンの栽培に関わる。ポテチに換算すると約4万5千袋分だ。」とあり、実際に栽培するのは別の人です。〈65人の農家に指導〉と書くと迫力が失せてしまうのでしょう。

 それにしても、一読してすぐにおかしいと思いました。ジャガイモ1万トンでポテトチップ4万5千袋。ということは、10トンで45袋。ポテトチップにそれほどのジャガイモは要らないだろう…。研究開発のために、大量のジャガイモを使ったとは書いてありませんでした。

 果たせるかな、翌日の訂正記事です。

 

 16日付「凄腕つとめにん」の見出しと本文で、栽培に関わるジャガイモをポテトチップに換算した場合、「4万5千袋分」とあるのは「4500万袋分」の誤りでした。確認が不十分でした。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年4月17日・夕刊、3版、8ページ)

 

 「4500万袋分」という大きな数字になったことを喜ばなくてはならないのでしょうが、「確認が不十分でした。」という言葉が何ともなさけなく聞こえます。

 それにしても、この記事を書いた記者こそ「凄腕」です。同僚記者が読んでも気づくことなく、記事を整理して紙面を作った人も気づくことなく、校正担当者も気づくことなく、それらをすり抜けて、堂々と紙面を飾った手腕はなかなかのものだと言わなければならないでしょう。

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