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2018年6月12日 (火)

言葉の移りゆき(56)

「ある」と「存在する」の違い

 

 物事が「ある」という言葉は、ごく日常的な表現です。「ある・なし」はすぐにわかります。けれども、物事が「存在する」という言葉は、なかなか難しい内容を含んでいるようです。「存在する・しない」は目や耳などを研ぎ澄ましても確認できないようなことがあるようです。目の前にあっても、存在しないのですから、なかなか厄介なことです。

 こんな記事を読みました。

 

 国家公務員になって間もない頃、机上に配られた紙を見て、首をかしげた。右上に「ノンペーパー」と書いてあった。上司に意味を質問すると、こんな答えが返ってきた。「紙はここにある。しかし、存在はしないことにするという意味だ」。こうした文書はだいたい、政治家や他省庁との生々しいやりとりといった公表したくないものだ。

 改ざんの発覚を受け、今後、各省庁は決済文書に政治家とのやりとりなどは盛り込まないよう徹底するだろう。「ノンペーパー」であっても開示を迫られるかもしれないと、生々しい事実は極力口頭で伝えられる可能性がある。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年6月9日・朝刊、13版、8ページ、大日向寛文)

 

 「ノンペーパー」についての質問に対する上司の回答は、わかりやすいと思います。「ある」ということと「存在する」ということの違いを簡潔明瞭に述べています。

 上司から新入公務員に対しての回答(説明)は「あり」ましたが、何かの都合で、「そんな説明をした憶えはない」ということにしなければならなくなったときは、回答は「存在しなかった」ことになるのでしょう。

 文書だけのことではありません。国会のやりとりを見ていますと、いろいろな出来事が「あった」はずですが、それがいとも簡単に「存在しなかった」ということにされているようです。「存在しない」という言葉は万能の言葉として使われています。

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