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2018年7月10日 (火)

言葉の移りゆき(80)

「劇勝」とは何か

 

 日本チームが敗退しても、ワールド杯サッカーの報道は縮小される気配がありません。新聞も放送も、準備を整えていたのだから、報道を続けなければ損害が発生すると言わんばかりの状況です。新聞の場合は、ワールド杯に割くページ数が多く、スポーツ面だけでなく、フロントページも社会面も見境なく、サッカーの話題に占領されています。

 記事の数が多いということは、見出しの本数も多いということです。自社に限っても同じような見出しを何度も使うわけにはいかない、他社の見出しを真似るわけにもいかない、という事情があるのでしょう。時々は、意図のわからない見出しや、その言葉を使った人の自己満足のような表現もあります。

 「劇」という言葉に注目します。

 

 サッカーW杯開幕の話題をさらったのはスペインの監督交代劇だった。就任以来20戦無敗のロペテギ前監督(51)が初戦を2日後に控えて解任された。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年6月17日・朝刊、13版、1ページ、「天声人語」)

 

 「監督交代劇」という場合の「劇」の使い方に違和感はありません。けれども、「劇」という言葉には、筆者の考え方が強く反映されています。「……スペインの監督交代だった。」と言えばよいものを「劇」と見なしたのは筆者です。一種の芝居のような出来事だったと判断したから「劇」という言葉を挿入したのです。

 ついでながら、「前監督が……解任された」という表現はおかしいと思います。解任された結果、「前監督」になったのです。

 

 さて、次のような見出しの記事がありました。

 

 20年ぶり劇勝 まさかじゃない / 耐えて焦らせ 終了間際にオウンゴール

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年6月16日・夕刊、3版、7ページ、見出し)

 

 「激勝」という言葉は時々、目にします。それに対して、「劇勝」とはどういう勝ち方のことでしょうか。「劇的な勝利」を約めたのでしょうか。そうだとしたら、乱暴な言葉遣いです。

 そもそも本文には使われていない言葉です。本文にあるのは次のような表現です。

 

 その後も、イランはゆっくり選手交代をしたり、けがで試合が止まると再開を遅らせたり、徹底的にモロッコを焦らせた。その成果が、相手の不用意な反則で奪ったFKのチャンスであり、相手のミスによるオウンゴールだった。

 (上記の記事と同じ、河野正樹)

 

 記事の表現が見出しに反映されていますが、「劇勝」だけが浮き上がった感じです。ゆっくりした行動で相手を焦らせたことが、劇(芝居)の筋書きを実践したように見えたと言うのでしょうか。

 最近の新聞は、新聞記事の本文を離れて、見出しだけが高揚感を見せる表現が多くなりました。悪く言うと、見出しの一人芝居です。それは、このブログでたびたび指摘してきたことです。

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