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2018年7月22日 (日)

言葉の移りゆき(92)

「立ち位置」の「立ち」とは?

 

 「立ち位置」とは、立っている位置のことです。だから、国語辞典には載っていません。当然のことです。「バッターボックス内での〇〇選手の立ち位置はやや前寄りです」などという表現なら、何の違和感もありません。

 けれども、次のような表現になると、心中穏やかではなくなります。

 

 放送中のテレビ番組を視聴している世帯の割合を示す「リアルタイム視聴率」は、CM料金の基準であり、番組評価の物差しにもなってきた。しかし、ネット視聴が広がり、好きな時間に好きな場所で番組が見られるようになった今、その立ち位置は変わりつつある。

 (毎日新聞・大阪本社発行、2018年5月30日・夕刊、8ページ、「ザッピング」、井上知大)

 

 この立ち位置というのは、「リアルタイム視聴率」が自己の意思でしっかり立脚している場所のことを言っているのでしょうか。それとも、「リアルタイム視聴率」が周囲の事情によって場所を揺れ動かされていることを言っているのでしょうか。「立ち位置」という言葉が浮き上がって、何を言っているのかよくわかりません。

 「位置」とだけ言えばよいのに「立ち」という言葉を被せる理由について、説明を見聞きしたことがありません。「位置」という言葉は、物や人が全体や他との関係で、ある位置を占めることを表しています。「立ち」が付こうが付くまいが、同じことです。

 上の記事には、〈変わる「視聴率」の立ち位置〉という見出しが付いていますが、それは、「視聴率」の価値(重要度)に変化が生じてきているということでしょう。けれども、「立ち位置」は価値(重要度)という意味ではないでしょう。

 「立ち位置」という言葉は、誰かがふと使った言葉に新鮮味を感じて、追随して使う人が増えたということでしょうが、何とも曖昧な言葉です。こんな言葉が、日常語の世界ではなく、論理的な文章の中で大手を振って使われるようになることだけは排斥したいと思います。

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