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2018年7月24日 (火)

言葉の移りゆき(94)

音声言語の「活字化」

 

 「活版印刷」という言葉がありました。活版とは、活字を組んで作った印刷用の版のことです。その活版を使って印刷することを活版印刷と言いました。印刷方法の変化に伴って、新聞や雑誌で活版印刷をしているものは、もはや皆無と言ってよいでしょう。

 それはすなわち、活字がなくなったということに等しいのです。「活字」は、活版印刷に用いる金属製の文字の型ですが、活字の出番は、今では趣味の世界あたりにしかないように思います。

 もっとも、「活字」には、本や雑誌のような印刷物という意味もあります。2005年7月に「文字・活字文化振興法」が公布されましたが、出版物などの文化的所産などを視野に入れた法律です。活版印刷が盛んであったころには「活字文化」と言えばよかったでしょうが、その後の印刷形態の変化によって「文字文化」という言い方も必要になったのでしょう。「文字・活字文化」という言葉は苦肉の結果のようです。

 ところが、実物としての「活字」が消えても、活字によって印刷される「文字」のことを活字と称する使い方は残っているようです。

 

 若者のラジオ離れが進む中、新たなリスナーをどう掘り起こすか。ラジオ局が知恵を絞っている。そのひとつが、放送した番組から話題を呼びそうな内容を「ニュース」や「読み物」して活字化し、インターネットに発信する試みだ。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年6月23日・朝刊、13版、35ページ、丸山ひかり)

 

 この記事の見出しは、〈ラジオ活字化し配信 / 新リスナー掘り起こし 各局模索〉となっており、記事の中にも「活字化」という言葉が使われているのですが、その他に、〈放送を聴きながら、話題を呼びそうな部分を文字に起こす〉とか、〈文字に起こすと、もとのニュアンスより強い印象になる場合がある。〉とかの表現もあります。

 私は、長年にわたって方言を研究していますが、方言談話として録音した資料を「文字に起こす」ことを、方言研究の世界では古くから「文字化」と言ってきました。活字が存在した時代であっても「活字化」とは言いませんでした。

 ラジオで放送した言葉を文字に直すことは、即座に印刷物を作ることではありませんから、「活字化」と言うよりは「文字化」と言う方が良いのではないかと思います。

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