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2018年8月 2日 (木)

言葉の移りゆき(103)

大きいことは良いことだ

 

 昔、CMから生まれた「大きいことはいいことだ」というフレーズが流行語になったことがあります。そして、時が流れても、その言葉を信奉している人がいるようです。総じて、新聞や放送の世界では、数字は大きいものに価値があると思って、それを前面に出す姿勢があるようです。

 こんな記事がありました。

 

 仕入れた海苔を、高級贈答用から業務用までどの商品に使うかの判断を、その一手に委ねられている。店のブランドで売る全ての海苔が、必ず自身の目の前を通過し、全ロットからサンプルを抜き取って品質を判断する。一日に用途を決める海苔は、約30万枚に上る。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年7月30日・夕刊、3版、2ページ、「凄腕つとめにん 清水正望さん」、吉川啓一郎)

 

 嘘が書かれているわけではありません。添えられた写真の説明には、〈1回の判断にかける時間は平均1分弱。長くても2~3分だ〉とあります。ということは、判断する海苔は1時間に60枚程度。仮に1日にその10倍をこなすとしても600枚程度でしょう。記事の見出しは〈使い道を決める海苔 一日約30万枚〉とあります。検査する枚数が30万枚と書いているのではない、30万枚の使い道を決めると書いているのだと反論されたら、それまでです。嘘は書かれていなくても、どうして30万枚というような数字を前面に出さなくてはならないのでしょうか。

 清水さんの「凄腕」というのは、判断する枚数のことでしょう。抜き取ったサンプルを見て、判断する技能のことでしょう。

 例えば印刷業界で、1枚の原紙を1時間かけて厳密にチェックして、それを50万枚刷ったとすれば、50万枚の印刷物を1時間でチェックしたという理屈なのでしょう。新聞社が、勝手に数字を作り上げているように思えてなりません。読者を驚かすには、それぐらいのことをしなければならないと考えているのでしょうか。

 

 別の記事では、正真正銘、きちんと見る枚数のことが話題になっています。

 

 丹羽さんは毎日、午前9時から午後7時までの雨雲レーダー図と天気図をもとに予報を導く。1日に見るのは約300枚。16年間で見た雨雲レーダー図は約190万枚に上る。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年7月2日・夕刊、3版、2ページ、「凄腕つとめにん 丹羽祐久さん」、堀内京子)

 

 この記事の見出しは、〈16年間で見た雨雲レーダー図 約190万枚〉です。毎日の業務の積み重ねの数字ですから、何の違和感もありません。けれども、「1日に見る雨雲レーダー図 約300枚」と書いても、「凄腕」ぶりは同じことなのです。まるで、数字をこなすことが凄いことだと言わんばかりです。

 「凄腕」という言葉と結びつくのは「万」という数字なのでしょうか。10冊の本を読んだと言うよりは、30万字を読んだと言う方が、凄い数字のように見えるのでしょうか。

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