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2018年8月18日 (土)

言葉の移りゆき(119)

「リアル」は本物か、本物に似たものか

 

 その記事にはたった一本の見出ししか付いていませんでした。〈リアルな星空見上げたら〉という見出しです。

 「リアル」はしばしば目にする言葉ですが、小型の国語辞典には、現実的であることという意味と、写実的であることという意味とが書かれています。

 『広辞苑・第4版』ですら、書かれているのは次のような意味です。

 

 ①実際に存在するさま。現実的。実在的。②真に迫ったさま。写実的。

 

 ここで、気になるのは、「リアル」という言葉は、現実に存在するもの自体を表しているのかどうかということです。現実的とか、写実的とか、実在的とか、「的」という言葉を使うと、そのものに近いけれども、そのもの自体でないような気がします。「実際に存在するさま」という説明も「さま」という言葉が曖昧で、現実に存在するもの自体にぴったり一致するとは言い難いような表現です。

 記事の見出しに戻ると、〈リアルな星空〉というのは、頭上に輝く星空そのもののことなのでしょうか。星空を忠実に再現した、例えばプラネタリウムで見る星空のことなのでしょうか。それとも、星空を写実的に描いて、現実の星空に近い雰囲気をそなえたものなのでしょうか。

 実は、この見出しは、記事を整理した人の勇み足のような表現です。記事には「リアル」という言葉は出てきません。その記事の見出しに、いろいろな意味に解釈できる「リアル」という言葉を使ったのが、よくないのです。

 記事の本文は、次のようになっています。関東地方に住む18歳の少女が、不登校となった中学時代に「ネット依存対策キャンプ」というものに参加したときの様子が書かれているのです。

 

 午後9時半の就寝前には皆で星座を数えた。「星ってこんなにあるんだ」。少女はいつまでも夜空を見つめていた。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年7月18日・朝刊、13版、25ページ、「ネットネイティブ」、山田佳奈。見出しもこの記事)

 

 この記事はネット依存ということがテーマですから、「ネット」に対立する言葉として「リアル」を使ったのでしょう。けれども、「リアル」にはさまざまな意味があるということを忘れてはいけないでしょう。

 ついでながら、この記事には、上記の少女が「この春、東京六大学のひとつに合格した」と書かれています。東京六大学とは何なのでしょうか。野球の東京六大学に属する大学のひとつという意味でしょうか。彼女が野球部に入部するのなら、この表現に問題はありませんが、大学名を野球のリーグ名で分類するのは自然なことなのでしょうか。東都大学リーグの学校とか、首都大学リーグの学校に合格したなどという言い方はしないはずです。

 

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