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2018年8月20日 (月)

言葉の移りゆき(121)

「個性」を分類する不思議

 

 ずっと昔、テレビの放送が始まった頃、まだNHKのテレビしかなかった頃、どこかの店や隣家などでテレビを見せてもらって喜んでいました。放送局がひとつしかなかった時は、落語もプロレスも自然風景もニュースも、放送される番組を食い入るように眺めていました。雑多と言えば雑多ですが、見る番組に広がりがあったのです。

 そして今、チャンネル数が膨張して、例えばゴルフ番組や競馬番組やアニメ番組だけを朝から晩まで見続けることが可能になりました。それによって、嗜好の狭まり(深化)が起こっています。

 読書も同じです。活字に飢えていた終戦直後、本であればもうそれだけで有り難く思った時代は、読書する範囲も広かったと思います。そして今、書物が氾濫する時代は、特定の分野だけでも、無数の本が手に入ります。読書対象の分野を狭めようとすれば、いくらでもそれが可能です。どちらが、ひとりの人間にとって望ましいことなのでしょうか。とりわけ、年若い世代が、興味・関心の対象を狭めてしまうことは良いことではないと思います。

 話題は変わりますが、「個性」というのは、個人または個々のものに備わっていて、他から区別されている固有の性質のことです。人間は、ひとりひとり異なった個性を持っています。そして、その個性がどのようなものであるかは簡単には識別できないのです。

 新聞で、〈個性にあった絵本お届け〉という見出しの記事を読みました。広告の記事ではありませんから、驚きました。記事は次のように書かれています。

 

 凸版印刷が7月から子どもの個性にあった絵本を選び、自宅に届けるサービスを始めた。 …(中略)

 子どもの知性を「視覚・空間」「音楽・リズム」「内省」「論理・数学」など八つに分類した「脳力指標」を開発。専用サイトで子どもの行動パターンに関する質問に答えると、子どもの知性の特徴を診断し、その子に合わせた絵本が自宅に届く。3~5歳の子どもが主な対象だ。 …(中略)

 記者も息子の個性診断を試してみた。44の質問に6段階で答えていく。その結果、息子が得意なのは「自然・博物学」「内省」「論理・数学」だった。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年7月18日・朝刊、13版、7ページ、「ヒット!予感実感」、野口陽)

 

 本文にも「個性」という言葉が何度か使われています。会社側が商品名に「個性」という言葉を使っているのでしょうか、記者の判断で使っているのでしょうか。そもそも、行動パターンから、個性がわかるものなのでしょうか。しかもそれが8つに分類されていると言います。無数の個性を8つのうちのいくつかにあてはめるという、粗っぽい手法です。どうしてその8つに分類できるのか理解できませんが、それによって絵本を送りつけるというのは、指導というよりは商売の手法のように思われます。このようなものが「ヒット!」してよいのでしょうか。

 個性を育てるのなら、3歳や5歳の子どもには広い範囲の絵本を読ませるのが望ましいのではないでしょうか。この商売は、興味・関心や嗜好などの範囲を狭めていく働きをしているように思われてなりません。

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