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2018年8月22日 (水)

言葉の移りゆき(123)

「データ」とは何を指すか

 

 「データ(data)」という言葉の意味を『広辞苑・第4版』で見ると、次のように書かれています。新しい版では説明が加えられていったことだろうと思いますが、ともかく旧版ではこのようになっています。

 

 立論・計算の基礎となる既知の或いは認容された事実・数値。資料。与件。「実験-」

 

 ずいぶん簡単な説明でした。外来語としての「データ」は、客観的な事実とか、判断や推論の参考となる資料や情報とか意味を表す言葉から出発したのでした。

 ところが、現在では、パソコンに入力された文章や数値や図形なども「データ」と言いますし、映像として録画されたものや、音声として録音されたものも「データ」と言うように広がってきました。

 

 例えば、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の業務を巡る汚職事件を報じる記事の見出しに、〈接待 音声データ / 文科省汚職 元役員が録音か〉とあり、記事には次のような表現がありました。

 

 文部科学省前国際統括官の川端和明容疑者(57)が医療コンサル会社元役員の谷口浩司容疑者(47)から接待を受けた際の会話が、録音されていたことが関係者の話でわかった。東京地検特捜部はこうした音声データを入手しており、 …(中略)

 関係者によると、音声データは元役員が録音していたとみられ、接待の場で交わした会話が録音されていた。 …(中略)

 支払いにはクレジットカードが使われており、特捜部はカードの支払い記録などの関係資料から、前統括官が出席した接待の日付や参加者の特定を進めるとともに、接待の頻度や総額について詳しく調べている。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年8月11日・朝刊、13版、29ページ)

 

 記事には、録音する行為は「録音する」と表現し、録音されたものを「音声データ」と表現するという、一貫した姿勢が見られます。昔は、録音されたものは「録音」とか「録音物」とか言っていたように思います。「録音テープ」という言い方も広く使われていましたが、テープが姿を消し、ITレコーダが使われるようになって「音声データ」という言葉が広まったのでしょう。

 この推移によって、「データ」の意味は、客観的な事実や、判断や推論の参考となる資料や情報、ということから拡大されて、録音されたものの内容が何であろうと「音声データ」と言われるようになったのだろうと思います。

 記事の後半に、〈カードの支払い記録などの関係資料〉という表現があり、これこそ原義に近い「データ」だと思いますが、それは「データ」と表現されていません。

 この現象は、「データ」という言葉の意味を拡大して使い過ぎていると考えるべきか、それとも、それを容認して、国語辞典の説明が追いついていないのだと考えるべきか、どちらなのでしょう。

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