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2018年9月 2日 (日)

言葉の移りゆき(134)

「底なし」は褒め言葉か

 

 アジア大会の水泳競技における、池江璃花子選手の華々しい活躍は新聞や放送で大きく取り上げられています。その様子を伝える新聞記事の見出しです。

 

 池江 隙なし底なしの18 / 連戦の疲労「金メダルとると吹っ飛んだ」 冷静に0秒07差で逆転

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年8月25日・朝刊、13版、20ページ。見出し)

 

 記事全体は池江選手の冷静なレース運びを称える文章です。本文中に「隙なし底なし」の言葉はありません。

 さて、「隙なし」はわかりますが、「底なし」はこの状況にふさわしい言葉でしょうか。「底なし」には、「底なしの沼」のように、どこまで行っても底に届かないほど深いことという意味があります。それとともに、別の意味もあります。その「別の意味」を国語辞典から書き抜きます。

 

 『明鏡国語辞典』  きりがないこと。程度がはかりしれないこと。「-の大酒飲み」

 『現代国語例解辞典・第2版』  際限のないこと。「飲ませたら底なしだ」

 『新明解国語辞典・第4版』  そこぬけ。

 『岩波国語辞典・第3版』  きりがないこと。「-に食う」

 『三省堂国語辞典・第5版』  かぎりがないこと。「-のお人よし」

 『広辞苑・第4版』  転じて、際限のないこと。「-の大酒飲み」

 

 池江選手が際限のない力の持ち主であることは誰もが認めるところでしょう。けれども、それは「底なし」という表現にふさわしいでしょうか。言葉の意味は正しくても、印象の良くない言葉です。

 それは、幾つもの国語辞典の用例が、良い印象のことがらを表していないことからもわかるはずです。用法(用例)のことを考えたら、この言葉を使うべきではありません。記録が伸び進んでいる選手は、「底(下限)」がないというのではなく、むしろ「上蓋(上限)」がないという表現がふさわしいのではないでしょうか。

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