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2018年9月21日 (金)

言葉の移りゆき(153)

ひたちなかのコキア

 

 名前はイメージをかき立てます。小さな国語辞典に「コキア」という言葉は載っていません。発音からは、ごつごつした感じがしないでもありませんが、それが観賞用のものだと言うのならば、外国からやって来た、新しい花かもしれないと思います。

 次の記事の一文目を読んだときの感想です。

 

 茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園で、コキアがライトアップされ、訪れた人たちを楽しませている。コキアは和名でホウキグサとも呼ばれる直径六、七十センチほどの球状の一年草。約1・4ヘクタールに植えられた約3万本が、赤色や黄色など、色とりどりに照らされる。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年8月18日・夕刊、3版、7ページ、関田航)

 

 ところが二文目でびっくりします。ホウキグサのことだと言うのです。

 箒草は一年草で、茎を乾燥させて草ぼうきを作ります。私が幼い頃は、近所でごく普通に見かけた植物です。今はわざわざホウキグサから箒を作る人はいませんが、かつては実用のものでした。

 古くは箒木(ははきぎ)とも呼ばれて、「源氏物語」の巻の名にもなっています。日本の人たちにとっては身近なものでした。そのような名前を捨てて、コキアとは何事でしょうか。その方が格好良いのでしょうか。

 箒木の大群落は見てみたいという気持ちになります。日本の風景だからです。コキアの群落は見ても見なくてもよいのです。どうせヨーロッパ風の景色だろうと思うからです。名前を変えても実体は変わりません。けれどもイメージは見事に転換してしまいます。観光用・商売用に言葉をいじることには賛成ではありません。

 ついでながら、「ひたちなか」という平仮名の市名も、その方が格好良いのでしょうか。常陸や那珂という漢字表記を捨てて、発音だけで記すというのは、どういう理由によるのでしょうか。各地に平仮名地名があるから真似ようというのでしょうか。読みにくいから平仮名にするという理由は成り立たないと思います。常陸という旧・国名も、那珂川や那珂湊という地名も広く知られています。国までが真似をして「国営ひたち海浜公園」と命名しています。日本語を安易に、安易に考えています。

 日本を「にっぽん」と書くことがあります。けれどもそれは正式の表記ではなく、「日本」という正式表記が存在します。「ひたちなか」はそれが正式の表記になってしまっているのです。

 コキアという名前を見てしまったら、目の前の草から箒木を思い浮かべる人はいるのでしょうか。

 「ひたちなかのコキア」は、日本語の将来に大きな警告をしているようです。

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