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2018年9月26日 (水)

言葉の移りゆき(158)

「積み上がる」の不自然さ

 

 「煉瓦を積み上げる」と言うときの「積み上げる」は複合動詞です。「積む」と「上げる」が合わさった言葉です。

 「積む」は、一般的には他動詞として使います。時々、やや古風な言い方として、「雪、降り積む」などと言いますが、これは自動詞です。「上げる」は他動詞です。この語の自動詞の形は「上がる」です。

 複合動詞となる場合は、「見逃す」のように他動詞同士であったり、「落ち着く」のように自動詞同士であったりします。他動詞と自動詞を結び付けて複合動詞にすると、意味の上でちぐはぐな感じになりますから、そのような例は珍しいと思います。

 他動詞と自動詞を結び付けて複合動詞にすることを考えてみます。最初の例、「煉瓦を積み上げる」を「煉瓦が積み上がる」と言えば、どんな印象になるでしょうか。「積み上げる」は意志を持って積み上げたことになるでしょうが、「積み上がる」は人間の意志とは無関係に、災害とか事故とかで煉瓦の塊(建築物や塀など)が分解して無秩序に集積している感じになるでしょう。他動詞と自動詞を複合動詞とする言い方は、やっぱり言い方としては不自然ですから、こんな表現は避けるのが普通だろうと思います。

 滋賀県が東京に設けたアンテナショップを紹介した文章に、「積み上がる」が使われていました。

 

 店内に踏み込んでも、特産品が所狭しと積み上がることなく整然と並ぶ様子は、アンテナショップとしては異質に映る。

 (毎日新聞・大阪本社発行、2018年9月21日・夕刊、3版、7ページ、「憂楽帳」、濱弘明)

 

 「積み上がる」(後半は自動詞)ことなく整然と「並ぶ」(自動詞)という言葉は、商品が人手を離れて自動的に動いているように見えます。ロボットか何かで商品陳列作業を行っている感じです。

 商品を「積み上げる」(他動詞)ことをしないで、整然と「並べる」(他動詞)と言えば、係員が心を配って陳列作業をしているように感じられるのですが…。

 なお、ついでながら、「踏み込む」は、予告なく、あるいは強引に、建物や部屋などに入り込むという印象が強い言葉です。ちょっと乱暴です。「(足を)踏み入れる」というような表現の方がよいのではないでしょうか。

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