« 言葉の移りゆき(172) | トップページ | 言葉の移りゆき(174) »

2018年10月11日 (木)

言葉の移りゆき(173)

「民泊」という言葉の成り立ち

 

 「民泊」とはどういうものなのでしょうか。前回に引用した記事には、次のような記述があります。

 

 旅館総合研究所の重松正弥さんに聞くと「法律としては住宅宿泊事業法が正式名称。あくまでも住宅としての位置づけ。年に180日しか宿泊施設として稼働できない」という。住宅! だから宿泊施設の概念を外した名称なのか。

 (朝日新聞・大阪本社発行、201810月3日・夕刊、3版、5ページ、「ことばのたまゆら」、前田安正)

 

 この文章も言葉遣いがおかしいと思います。「民泊」の正式名称が「住宅宿泊事業法」であるはずがありません。この法律に基づいて、宿泊施設として認められているのが「民泊」施設であるのです。では、この法律に「民泊」という言葉は出てこないのでしょうか。

 ホームページで住宅宿泊事業法を検索してみました。平成29年6月16日公布のこの法律の中には「民泊」という言葉は使われていないようです。

 ところが、観光庁のホームページでは、この法律を説明する冒頭の文章の1行目に「住宅宿泊事業の届出制度や住宅宿泊管理業・住宅宿泊仲介業の登録制度など一定のルールを定め、健全な民泊サービスの普及を図ります。」と書いています。法律には出てこなくても、官庁が「民泊」を正式名称として使っているようです。

 新聞記事の中にある、「だから宿泊施設の概念を外した名称」というのは「民泊」のことを指しているのでしょうか。「泊」という文字を入れて、「民泊」という言葉を作ったのに、「宿泊施設の概念を外した」というのは、奇妙な説明です。それでは、「民泊」という言葉を、どのように説明すればよいのでしょうか。

 

 さて、ここでのテーマは、法律のことではありません。言葉の問題です。

 ホテルに宿泊することは「ホテル宿泊」ですが、それを短く「ホテル泊」と言うことがあります。旅館に宿泊することは「旅館泊」です。そういうふうに考えると、民家(住宅)に宿泊することは「民家泊(住宅泊)」で、それを短くしたのが「民泊」というように考えられます。「住泊」という言葉も可能でしょうが、「民泊」の方がなんとなく落ち着いた感じがするので、そちらを選んだのでしょう。

 似た言葉に「民宿」があります。たいていの国語辞典は、一般の民家が営業許可を得て、副業的または季節的に営む簡便な宿泊施設、というような説明をしています。また、そこに泊まることも「民宿」です。これは「民家宿泊施設」を約めた言葉でしょう。

 このように考えると、「民泊」と「民宿」は、その言葉を作った要素が異なると言ってよいでしょう。

 私たちは、言葉(とりわけ漢字)の短縮を一瞬のうちに行っているようです。特急は「特別急行」の短縮形だと思う感覚は、今では失せてしまっています。特急の前に「快速」を加えて「快速特急」と言い、さらにそれを「快特」と言ったりします。そのうちに、「超快特」が生まれ、それが「超快」や「超特」になり、さらに別の言葉へと発展していくかもしれません。

 もとの話題に帰ると、「民家泊」などという言葉を思い浮かべる前に「民泊」という言葉を思いついていると言ってもよいでしょう。漢字が表意文字であることを活用しているのです。けれども、出来上がった言葉がどのような意味(概念)をそなえているかということは、明確にしておかなければなりません。

|

« 言葉の移りゆき(172) | トップページ | 言葉の移りゆき(174) »