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2018年10月16日 (火)

言葉の移りゆき(178)

「苦節何十年」という言葉

 

 「苦節」という言葉は不思議な使い方をされているように思います。

 はじめに、「苦節」という言葉を国語辞典がどのように説明しているか、引用します。

 

 『広辞苑・第4版』……苦しみによく耐えて信念や立場を守り通すこと。「-十年」

 『岩波国語辞典・第3版』……苦しみに負けずに守り通す心。「-十年」

 『三省堂国語辞典・第5版』……逆境にたえて・仕事をする(志をつらぬく)こと。「-十年」

 『新明解国語辞典・第4版』……苦しみに堪え、初心を守り通すこと。「-十年」

 『明鏡国語辞典』……困難や苦しみに耐えて、初心や信念をつらぬき通すこと。「-一〇年、初志を貫徹する」

 『現代国語例解辞典』……逆境にあっても節を曲げないこと。また、そのかたい心。「苦節十年初志を貫く」

 

 お見事! としか言いようがありません。揃いも揃って「苦節十年」という用例が収められています。これを見る限り、「苦節」は、苦しみが長く続いた場合に使う言葉かと思います。実際の用例を新聞記事から拾うと、やはりそうなっています。

 

 苦節20年。今年1月、簡単に縫えて、丈夫で、履き心地もよい理想のスリッパが完成した。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年9月9日・朝刊、10版、27ページ、「with読者会議」、栗田優美)

 

 見出しも「苦節20 理想の古布スリッパ」となっています。

 「苦節」と言う限りは「苦」(苦しみ)の要素が入っていないと使えないでしょう。それとともに、引用した国語辞典の説明でほぼ共通していることは「信念・志・初心・立場を守り通す」ということです。

 ところで、国語辞典は、「節」をどのように捉えているのでしょうか。「節」という文字には、〈自分の志・行動・主義を守って変えないこと〉という意味、〈とき。おり。時期〉の意味、その他にもいくつかの意味があります。漢和辞典を見ればわかります。

 多くの国語辞典は〈自分の志・行動・主義を守って変えないこと〉という意味を記述しながら、用例になると〈とき。おり。時期〉などの意味に支えられた言葉を挙げているのです。不思議な気がします。たぶん「苦節」は十年、二十年と続かなければ使えない言葉なのでしょう。

 「苦節を続けた」というような表現には出会いませんし、「苦節6カ月」では短すぎるでしょう。「苦節」はイメージが先行している言葉のように感じます。

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