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2018年10月19日 (金)

言葉の移りゆき(181)

威勢のよい「ハンドベル」

 

 私たちが住んでいる地域の小・中・高等学校の、50年ほど前のことを思い出すと、授業開始や終了を告げる合図は、サイレンを鳴らしていました。一日に十数回になるでしょうか、学校の周りの住民にはずいぶい迷惑なことであったろうと思いますが、おおらかな時代でした。

 今では、校舎内にチャイムが設置されて、サイレンは姿を消しました。

 ところで、サイレンであってもチャイムであっても、ある特定の学年だけが試験か何かを行って、他の学年と開始・終了時刻が異なることがありました。そんな場合は、重い鐘を持ち出して、廊下などで手で振り回して合図をしました。手で振り回すもののことを、そのものずばり、「鐘」と言っていました。別の言い方があるのかもしれませんが、大らかに「鐘」とだけ、言っていました。

 さて、築地市場から豊洲市場への移転に関して、さまざまなニュースが伝えられました。そのうちのひとつにこんな記事がありました。

 

 10月6日に閉場する築地市場(東京都中央区)14日、冷凍マグロのセリが報道陣に公開された。外国人観光客にも人気のマグロのセリは、15日に一般の見学を終了する。

 午前6時、ハンドベルが鳴らされ、白い冷凍マグロのセリが始まった。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年9月14日・夕刊、3版、10ページ、抜井規泰・有吉由香)

 

 記事にある「ハンドベル」とはどんなものでしょうか。私は、はじめに書いた、学校の「鐘」と同じようなものを思い浮かべました。鐘の大きさはいろいろあるでしょうが、手で振り回して、ガランガランと音を出させるようなものです。静かであるとは言えないセリの場所ですから、優雅な音では役に立たないでしょう。

 「ハンドベル」という言葉で、私が思い浮かべるのは、何人かの人が並んで、手に持って鳴らす楽器です。ひとつひとつのベルは異なった音階になっていて、そのベルを振って曲を奏でるのです。可愛らしい音が出ます。

 国語辞典を見ると、「ハンドベル」を載せているのは少ないようです。『三省堂国語辞典・第5版』には、次のような説明があります。

 

 〔音〕手でふり鳴らすすず。特に、楽器として用いられるもの。

 

 「手でふり鳴らす」のは、「鐘」でなく「すず」です。可憐なイメージです。「特に、楽器として用いられるもの。」とありますから、力任せに振り鳴らす鐘のイメージでもありません。

 築地市場で「ハンドベル」と称しているのか、記者の用語であるのかはわかりません。それはそれとして、国語辞典の世界が、今後、この言葉をどのように定義していくのか、注目したいと思います。

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