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2018年11月 1日 (木)

言葉の移りゆき(194)

軽薄な意味での「厚み」

 

 「厚みがあって、読みがいのある本」とか、「厚みがあって、信頼できる人」とか言うことがあります。「厚み」という言葉は、頼もしさや重々しさをもったものを表すことが多いように思います。客観的な数値などで判断するのではありませんから、その言葉を発する人の主観に支えられた言葉であるのです。

 言葉には長い間に培われてきた語感があります。「厚み」は、「厚さ」とは違うのです。「3・5ミリの厚さの板」というのと、「相当な厚みを持った板」というのとは、その言葉を発する人の思いが異なっています。

 だから、次のような文章には、違和感を覚えます。

 

 65歳以上で一人暮らしをする人の割合は今後、厚みを増すことが予想されている。

 総務省の国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所によると、65歳以上の高齢者で一人暮らしをしている人の割合は1990年時点では男性が5・2%、女性が14・7%だった。それが2015年にはそれぞれ13・3%と21・1%に上昇。40年は男性20・8%、女性24・5%になると推計される。

 (日本経済新聞・東京本社発行、20181022日・朝刊、13版、35ページ)

 

 人生経験豊かな高齢者が増えることによって、人口構成に深みが出来て、豊かな社会に役立つというのであれば、「厚み」という言葉にふさわしいと思います。

 けれども、高齢化社会を問題視して、それを忌避したいと考えているような論調の文章では「厚み」という言葉はふさわしくありません。

 総務省や国立社会保障・人口問題研究所などが「厚み」という言葉を使っているのか、記者の判断で使っているのかはわかりませんが、ちょっとした言葉遣いの違いで、発言者の言葉に対する細やかさが露呈してしまうように思われます。

 上の記事には、「厚み増す単身高齢者」という見出しが付いています。数値が増えれば、単純に「厚み増す」と言うのは、いかにも経済紙らしい表現です。

 

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