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2018年11月 3日 (土)

言葉の移りゆき(196)

新聞や国語辞典が混乱していないか

 

 今回は、新聞記事を先に引用します。なんでもない言葉です。

 

 トヨタ自動車と携帯電話大手ソフトバンクは4日、自動車の次世代技術で提携する方針を固めた。「ライドシェア(相乗り)」や自動運転など広範囲な分野で協業するとみられる。

 (毎日新聞・大阪本社発行、201810月4日・夕刊、3版、1ページ)

 

 トヨタ自動車とソフトバンク。日本を代表する大企業が、自動運転車を使った移動サービスの実現に向けて手を携える。 …(中略)

 中核を担うのが1月に披露した自動運転車「eパレット」だ。相乗りにも使え、この分野で協業する米ウーバー・テクノロジーズへの出資を表明した。

 (朝日新聞・大阪本社発行、201810月5日・朝刊、13版、11ページ、生田大介・竹山栄太郎)

 

 2つの記事で使われている「協業」という言葉は、異なる会社が力を合わせて事業を展開することのようで、文脈に違和感はありません。けれども、このような場合に、連携とか共同開発とかの言葉を使っても、「協業」という言葉をあまり見かけなかったように思います。

 念のため国語辞典を引いてみました。びっくりしました。

 

 『三省堂国語辞典・第5版』  農家や小さな会社・商店が、おかねを出しあって、共同で事業の経営をすること。

 

 この定義に従えば、「日本を代表する大企業」が「協業」するというのは、おかしいではありませんか。他の国語辞典を見てみます。

 

 『現代国語例解辞典・第2版』  労働者が、一定の生産を行うために仕事を分担、協同して組織的に働くこと。

 『明鏡国語辞典』  一定の生産過程で労働者が仕事を分担し、協同して組織的に働くこと。また、その生産形態。

 『新明解国語辞典・第4版』  同一の・(相関連する)生産過程で、労働者が同一計画の下に協同作業を行うこと。

 『岩波国語辞典・第3版』  ある生産工程を、大勢の労働者が、分担し合って組織的に働くこと。

 

 『三省堂』以外の辞典の定義は、「労働者が」「組織的に働く(または、協同作業をする)こと」という点で共通しています。会社同士の関係ではないようです。

 「広辞苑」は少し詳しい説明になっており、「協業経営」「協業組織」という言葉も載せられています。農業との関連が強いような説明です。

 

 『広辞苑・第4版』  一連の生産工程を多くの労働者が分担して協同的・組織的に働くこと。単純協業。→分業

   協業経営 農業経営の全部門または一部の部門を複数農家が協同で行う経営。

   協業組織 農機具の共同利用などのように農業生産工程のうち一部を複数農家が協同で行うこと。

 

 整理をすると、次のようになります。

①毎日新聞、朝日新聞……大会社と大会社の間で行うこと。

②『三省堂国語辞典』……農家や小さな会社・商店が共同で行うこと。

③上記のその他の辞典……(一定の組織内で)労働者が分担して行うこと。

 「協業」というのは難しい言葉ではありません。それ故に、かえって、自由な使い方が広がっていきそうな危うさを感じざるをえないのです。

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