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2018年11月 9日 (金)

言葉の移りゆき(202)

1400億年の「安泰」

 

 「安泰」という言葉は、無事で安らかなことを表します。危険を感じたり心配などが生じたりしないことです。

 この言葉の具体的な使い方を考えてみます。母子ともに安泰だ、と言ってもせいぜい何年か何十年という長さでしょう。武士の世の中が安泰だ、の場合は長く見積もって何百年というところでしょう。極端な場合は、期末試験が済んでしばらく安泰だ、と言うようにわずか数日間のこともあるでしょう

 「安泰」は、人間の心の中のありさまに関わる言葉です。客観的事実を示す言葉ではないと思います。

 次のような記事がありました。

 

 宇宙はこのまま静かに広がり続けるのか、それとも速く広がり過ぎて引き裂かれてしまうのか--。すばる望遠鏡で多くの銀河を精密に観測した結果、少なくともあと1400億年は「安泰」だと分かった。東京大学と国立天文台などのチームが26日、論文を公開した。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年9月26日・夕刊、3版、7ページ、東山正宜)

 

 「少なくともあと1400億年」というスケールは、「無常」だの「常住」だのという考えの及ぶところではありません。一人一人の人間の人生観・世界観をはるかに超えています。そのような先まで心配する人はいませんから、どんな情報を得ても、無事で安らかであって嬉しいと感じる人はいないでしょう。「ああ良かった。これで安心した」と胸をなで下ろす人がいないような事柄に、「安泰」という言葉はふさわしいのでしょうか。

 記事では「安泰」にはカギカッコが付けられています。いわば比喩表現だということを表明しているのでしょう。

 それでは、このような場合にどんな言葉を使えばよいのかということになると、まったくわかりません。1400億年というスケールのもとで、「安泰」に代わる、ふさわしい言葉があるようには思えません。そんな時間のスケールにまで人間の思いが到達していないのですから、言葉があるはずがありません。考えてみたことがないから当然です。

 ここは、「変化がある」とか「ない」とかの、客観的な言葉しか見つからないように思えるのです。

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