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2018年11月15日 (木)

言葉の移りゆき(208)

「ザ」は団体名や連語にだけ使うのではない

 

 「ザ」というカタカナと、普通の日本語とを続けて使う言い方が広がっています。世界遺産を紹介するテレビ番組のタイトルは「ザ世界遺産」(関西ではMBSで放送)です。「ザ〇〇」という言い方と「ザ・〇〇」の両方があるようです。

 たとえば、こんな記事がありました。石田紀郎さんを紹介した文章です。

 

 京都大で「農薬ゼミ」を主宰し、後に大学院教授も務めたのに学会から距離を置いた。「内輪で拍手し合ってもねえ」と言って。反公害に徹し、学者というより「ザ・市民運動家」。琵琶湖の水質浄化から農薬被害の告発、干上がる中央アジア・アラル海周辺の植林まで市民とつながる活動ばかりだ。

 (毎日新聞・大阪本社発行、201811月8日・夕刊、3版、9ページ、「憂楽帳」、高村洋一)

 

 このコラムは題名も「ザ・市民運動家」となっています。

 この「ザ」のことを見だしに載せている国語辞典は少数派のようです。その少数派の辞典の説明もちょっと舌足らずです。

 

 『三省堂国語辞典・第5版』  (接頭)the〕〔英語では、定冠詞〕団体の名にかぶせて使うことば。「- ビートルズ」

 『新明解国語辞典・第4版』  (造語)the=英語の定冠詞〕①団体の名にかぶせて使う。「- ビートルズ」②英語から入った外来語の連語の一部に使う。「オン  ロック・バッターイン  ホール」

 

 この2つの辞典の説明は、団体名や、外来語の連語に使われると言うのですが、新聞記事の用例は、そのどちらにも当てはまりません。

 「ザ世界遺産」も「ザ・市民運動家」も、外来語ではない言葉の頭部に置かれています。意味を推測すると、〈それが典型的なもの、あるいは代表的なものであることを表すときに、その言葉の上に付けるもの〉あるいは、〈その言葉に安定感を与えるために、その言葉の上に付けるもの〉ということになるでしょう。

 国語辞典の編集者は、新しい言葉を見つけて、それが社会の中に定着していく姿を追って、たいへんな苦労をされていることと思います。それと同時に、ごくありふれた、何でもない言葉にも注目しなければなりませんが、それが意外な落とし穴になっているような気がします。

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