« 言葉の移りゆき(236) | トップページ | 言葉の移りゆき(238) »

2018年12月14日 (金)

言葉の移りゆき(237)

「たい」を使って、相手に強要する

 

 「たい」という助動詞は、自分がそうすること、そうあることを希望するという意味を表します。「たい」だけを使って言い切る形では、話し手の希望を表しているのです。「いよいよ始まる全国大会で、ぜひ入賞したい」というような使い方です。そして、それが連体修飾語になっても意味は変わりません。「ぜひ入賞したい全国大会が、いよいよ始まる」というような使い方です。

 一方、「…てもらいたい」とか「…ていただきたい」とかの形で、相手がそうするよう希望すると意味を表すこともあります。他者にあつらえ望むということです。

 ところが、次のような表現が、しだいに広がっているように思います。

 

 来春に平成が終わり、新しい時代を迎えようとしている今、天皇家についての基礎的な知識が必要とされます。

 「知っておきたい天皇家の基礎知識」では、ぜひ知っておきたいことばかりをお話しします。歴史に詳しくない方も「なるほど、そうか」と楽しみながら学べます。

 (毎日新聞・大阪本社発行、201812月6日・夕刊、5ページ、毎日文化センター・PR)

 

 講座のPRをしている文章です。講座の担当者自身が「知っておきたい」と考えているのなら、この表現でよいと思います。どうぞ存分に知ってください、と考えればよいのです。けれども、これは講座を受講するようにという誘いかけをしている言葉でしょう。それならば、「知っておいてもらいたい」、「知っていただきたい」と言わなければなりません。たとえそのように言っても、人の心をある方向に向けようとしていますから、問題が解消するわけではありませんが、少なくとも、言葉遣いだけは正しくしておいていただきたい、というのが私の希望です。

 この「…したい」という言い方で、相手を誘う表現、あるいは、相手を自分の思うように引っ張り込もうとする表現が、広がりを見せています。以前に、旅行社のキャッチフレーズのことを書きましたが、商品の広告の場合はまだ罪が軽いと思います。

 文化的なことや、人間の心に関わるようなことでこれを行ってはなりますまい。講座のタイトルはもちろんですが、出版物の書名にもこれが広がっています。著名な文化人が、著書を買わせようとする手段として、この言い方を多用していることは見逃せないと思います。

|

« 言葉の移りゆき(236) | トップページ | 言葉の移りゆき(238) »