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2018年12月20日 (木)

言葉の移りゆき(243)

「コミュ力」は「コミュニケーション能力」に一致するか

 

 前回の続きで、「コミュ力」についての話題です。

 国語辞典で説明されていることに沿うならば、「コミュニケーション力」とは、〈言葉・文字・身振りなどによって、互いに、意思・感情・思考・情報などを、交換・伝達する力〉のことです。

 「街のB級言葉図鑑」で紹介されている文章によれば、〈広告などの文案・文章などを作る力〉が「コミュ力」であるようです。

 その「街のB級言葉図鑑」よりも半年前に、次のような見出しの記事がありました。

 

 コミュ力と言うけれど 【見出し】

 就活真っ盛り。この時期に「魔法の言葉」として飛びかうばかりか、今や人間の価値をはかる物差しのようにさえ使われる言葉が「コミュ力」だ。それっていったい何? 【リード文】

 (朝日新聞・大阪本社発行、2018年5月23日・朝刊、10版、13ページ、「耕論」)

 

 この特集は、3人の談話を集めたものですが、リード文では、「就活」「魔法の言葉」「人間の価値をはかる物差しのようにさえ使われる言葉」をキーワードにしています。それが「コミュ力」であると言うのです。

 川嶋太津夫さんの言葉を引用します。

 

 日本では、「コミュ力」という省略語で若者の間で日常用語化し、本来の意味から離れつつあります。空気をうまく読んだり、雰囲気を巧みになごませたり、テレビ番組のMCのようにうまくその場を仕切って回したりすることができる対人スキル、という理解が広がっているようです。少なくとも企業が学生に求める能力とは違います。

 (出典は、上に同じ)

 

 斎藤環さんの言葉を引用します。

 

 相手を傷つけず、ほどよい距離感で誰とでもやりとりする。その作法になっていったのが「コミュ力」でした。

 (出典は、上に同じ)

 

 岡田美智男さんの言葉を引用します。

 

 コミュ力とは、不完全な私たちが、お互いを補い、支え合うなかで生じる関係の力です。言い方を変えれば、自分の弱さ、不完全さを上手にそして適度に他者に開示することによって、相手の手助けを引き出していく力とも言えるでしょう。

 (出展は、上に同じ)

 

 引用した記事は 就職活動をテーマにした特集です。けれども、学生たちは「コミュ力」という言葉を、「コミュニケーション力」とは違った、ある限定された意味で使っていることは確かでしょう。「コミュ力」は、自己宣伝や自己擁護にとって都合のよいやり方であり、その能力のことを示しているのです。

 

 さて、最初(241)の話題に戻ります。新聞は、とりわけ見出しは、短い言葉で表現しようとします。「コミュニケーション力」という言葉を、今では特別な傾向を持った言葉になりつつある「コミュ力」という略語に置き換えることは、間違っていると言わなければなりません。

 大学の入学試験までもが、「魔法の言葉」や「人間の価値をはかる物差しのようにさえ使われる言葉 (すなわち、実際には物差しになっていない言葉)」である「コミュ力」ではかられるはずはありません。

 最後に言っておきたいことがあります。医師には、医師としての技術だけでなく、〈言葉・文字・身振りなどによって、互いに、意思・感情・思考・情報などを、交換・伝達する力〉が不可欠です。その力を持ち合わせていない人は医師失格です。その「コミュニケーション力」を強く持っているという女子受験生には、加点こそすれ、減点する必要がありません。順天堂大学は根本から間違っているのです。

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