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2019年1月 3日 (木)

言葉の移りゆき(257)

お正月にも「テイクアウト」

 

 昔は正月三が日は商店などが閉じられているのが当たり前でした。神に捧げるものという性格を持つお節料理は、その期間の食べ物でもあったのです。けれども今は、食べるものがなくなったらコンビニや飲食店に駆け込むような世相になってしまいました。打算的な人間が増えれば、風習なども廃れていってしまいます。

 

 さて、食べ物を店頭で受け取るときの言葉としては、「テイクアウト」などと言うより「お持ち帰り」の方が好ましいと思います。敬意が有るのか無いのかわからない「テイクアウト」よりも「お持ち帰り」という言葉の響きが嬉しいではありませんか。

 けれども店員さんの言葉に引かれて、「お持ち帰りの弁当を3つ、ください」と言うのは少しおかしいと感じます。店員さんは客に対して使っているのですが、客自身が敬意を込めたような「お持ち帰り」を使うのは避けたいと思います。

 次のような表現も同様だと思います。

 

 幼少のころ、お気に入りの絵本があった。里山や街の風景が断面になっていて、地上と地中の動植物や建物内部の様子が、素朴なタッチで描かれている。普段は見ることができない世界に想像をかき立てられ、繰り返し眺めた。

 (毎日新聞・大阪本社発行、201812月5日・夕刊、3版、11ページ、「憂楽帳」、山下修毅)

 

 「あなたのお気に入りの本は何ですか」と尋ねるのは自然な表現ですが、その質問に引かれて「私のお気に入りは…」と答えるのはいかがでしょうか。まして、対話としての表現でない場合に、文章中に使うのは行き過ぎではないでしょうか。

 「お持ち帰り」や「お気に入り」の「お」は、「お正月」や「お酒」の「お」とは異なるはずです。前者は尊敬語であり、後者は丁寧語(美化語)です、自分が主語となる場合に、「お持ち帰りになる」や「お気に入りである」という意味を込めた「お持ち帰り」や「お気に入り」はそぐわないと思います。

 「おめかし(する)〔=お化粧(する)〕」などは、自分が主語の場合でも、丁寧語(美化語)の範疇に近いかもしれませんが、「お持ち帰り」「お気に入り」はその範疇を出ているように感じるのです。

 「お健やかに新年をお迎えのことと存じます」とか、「今年一年もどうぞお元気にお過ごしください」と書かれた年賀状が届きます。けれども、自分のことを「お健やかに」とか「お迎え」とか言うことは決してありません。それと同じことだと思うのです。

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