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2019年1月 7日 (月)

言葉の移りゆき(261)

言葉の「東京一極集中」

 

 政治も経済も、東京への一極集中が進んでいます。それはよくないからブレーキをかけよう、という意見がないわけではありませんが、東京一極集中を享受している人が述べたのでは、本気で言っているのかどうかも疑問です。効果があろうはずがありません。

 スポーツも同じです。箱根駅伝のような関東地区の大学だけを対象にした催し物を全国に中継して、大きな行事として盛り上げるのですから、何をか言わんやです。地方分権などというのは掛け声だけのものでしょう。

 そして、言葉の世界も同じです。東京言葉がまるで日本の言葉であるかのように考えて、辞書の編集に反映されていることを知って仰天しました。

 国語辞典を作ることは大変な作業です。用例を採集し、それを辞典項目に取り上げるのですから根気のいる仕事です。けれども、それは東京という土地で、東京人の視野で行われているようにも感じられるのです。

 辞書づくりに携わっておられる方の本を読みました。例えば、こんな文章が目にとまりました。

 

 道路工事を示す看板に〈休工中〉と書いたシールが貼ってあるのも、ごくありきたりです。

 -いや、ちょっと待ってください。「休工」は、そんなにありきたりのことばでしょうか。試しに、お手持ちの国語辞典で「休工」を引いてみてください。

 私が調べた範囲では、「休工」を載せる国語辞典は、20種のうち2種しかありません。そのうち『日本国語大辞典』第2版には、〈仕事を休むこと。休業〉とあり、明治初期の用例が出ていますから、現代とは違う意味の言葉です。もう1種はわが『三国』第6版で、〈工事を休むこと。「-期間」〉という説明を入れてあります。この意味では古い用例が見当たらないことから、比較的新しく生まれた意味と考えられます。

 (飯間浩明『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか? ワードハンティングの現場から』、ディスカヴァー・トゥエンティワン、20131230日発行、163ページ)

 

 「いや、ちょっと待ってください。」と言いたいのは、私のほうです。「道路工事を示す看板に〈休工中〉と書いたシールが貼ってあるのも、ごくありきたりです。」というのは、東京で長く生活をしている人の感覚です。「休工」という言葉は、一定の地域で使われている言葉に過ぎません。関西では「休工中」というシールは貼りません。工事が行われていないときは「解除中」というシールを貼って、交通規制を行わない措置をとります。

 驚いたのは、『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか? ワードハンティングの現場から』という本に載せられている内容は、東京都内(と東京ディズニーランド)での用例採集に基づいて書かれていることでした。いや、驚くべきことではないかもしれません。これまでの国語辞典は東京の視点で作られていたのだということを再認識すべきなのかもしれません。

 この「休工中」については、私が2010年に書いた(すなわち、その2~3年前から用例収集を続けた)文章がありますから、次回以降にそれを紹介することにします。

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