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2019年1月 8日 (火)

言葉の移りゆき(262)

東京の言葉が異例であることもある

 

 前回の続きですが、その前に、私の言葉(用例)採集のことについて書いておきます。

 『言語生活』という雑誌がありました。筑摩書房発行の月刊誌です。その雑誌に「目」「耳」「カメラの散歩」というページがあって、読者の投稿を載せていました。私はある時期、その欄への投稿を続け、掲載してしただくことが多くありました。辞書編集者の見坊豪紀さんの「ことばのくずかご」も連載されていました。そのようなご縁で、私は見坊さんと手紙のやりとりを続けていた時期があります。

 その後、私は『ひとりの雑誌・現代語』というのを作りました。「目」「耳」に向けて幾つも書き送っても各号に掲載されるのは1つか2つです。できるだけたくさん載せるために個人で作ろうと思ったのです。まだワープロが普及する前ですから、手書きで作りました。何かで知っていただいた方から連絡があったときに、お送りするということをしておりました。

 面白い言葉、興味のある言葉を見つけたときは必ず写真で撮ることを習慣にしていました。数えたことはありませんが、既に何千枚も貯まっているはずです。

 話は飛びますが、中学・高校教員向けの雑誌『月刊国語教育』(東京法令出版)に私はいくつかの連載をしました。巻頭のカラーグラビア(4ページ)10回以上にわたって連載したのは「神戸圏の文学散歩」であり、随想風に書いた「国語教育を素朴に語る」(1ページ)50回を超える連載になりました。その後に連載したのが「文字に書かれた言葉の地域差」(2ページ)15回にわたって、写真入りで書きました。

 取り上げたのは「モータープール」、「駅下り・駅筋・駅入口・駅前」、「山側・海側・浜側」、「国道」、「深夜・早朝」、「入口」、「交通弱者用押ボタン・ほか」、「東詰・西詰など」、「先発・次発・次々発」などです。「地名の短縮形」や、「地名+私鉄名の組み合わせ」なども扱いました。その中の一つに、「解除中・休工中」がありました。

 私は、学会参加・その他で1年に2回前後は東京に行っておりました。ずいぶん前から、関西と東京を比べると、文字として書き記される言葉に差があることということが気になっていました。「解除中・休工中」もその一つです。

 もう一つ、大きな違いがあると感じたのは、「入口・前」です。例えば、明石市役所の近くにバス停や交差点があるとします。関西では明石市役所前ですが、東京では〇〇区役所入口です。関西で、市役所入口と言うと、市役所の門や玄関の辺りのことです。ところが東京では、少し離れている場所が区役所入口です。

 詳しい道路地図を見ると交差点名が記されていますから、それだけを辿っても調査はできるのですが、私は歩いて、バス停名、交差点名だけでなく、広告板・その他を見てみようと思いました。

 私は歩くことが大好きですから、江戸時代の5街道を歩くことを考えていました。ある時、決断して、「文字に書かれた言葉の地域差」を観察しながら、東京・日本橋から京都・三條大橋に向かって歩き始めました。東京で見る「入口」はどの地域から関西風の「前」に変わるのか。東京で見る「休工中」はどの地域から「解除中」に変わるのかということをはじめ、いくつもの関心項目がありました。見つけしだい写真に撮って、東海道を上っていったのです。(蛇足ですが、私はその後、東海道だけでなく、中山道、日光道中、奥州街道、甲州道中をすべて、端から端まで、自分の足で歩きました。)

 関西人から見ると、東京の言葉が異例に思われることがあります。そのような言葉が日本全体の標準であるかのように考えられ、国語辞典にそのように書かれることには異存があるのです。

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