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2019年1月 9日 (水)

言葉の移りゆき(263)

「休工中」と「解除中」の違い

 

 もとの話題に返ります。「休工」という言葉です。連載の中で、私は次のように述べています。

 

 関西で一般に見かけるのは「解除中」という言葉ですから、関東で初めて「休工中」というのを見たときには、珍しい言葉に接したという思いがしました。

 私にとって、「解除中」は見慣れた言葉であるから写真に撮る必要はなかったのですが、「休工中」を見たときには、その都度カメラを向けました。しかし、関東圏では「休工中」というのがごく自然な表現のようで、この言葉に出会うたびに珍しがる必要もないということが、次第にわかってきました。「休工中」の例を、東京都、横浜市、鎌倉市、平塚市、神奈川県箱根町の写真で紹介します。

 静岡県富士市では「現在規制なし」という表示を見ました。工事によって「片側交互通行」になっているようです。「工事中」という言葉には「休工中」が対応しますが、「片側交互通行(の規制)」という言葉には「休工中」がそぐわないという気持ちから、「規制なし」という言葉が選ばれたのでしょう。

 ホームページで、同じ業者が、「解除中」と「休工中」の両方のマグネット・ステッカーを販売しているのを見かけました。関東と関西では、どちらを注文するのかということが対照的になっているのかもしれません。

 (東京法令出版『月刊国語教育・368号』、201011月1日発行、8283ページ、「文字に書かれた言葉の地域差⑭」、橘幸男)

 

 工事中に対して「休工中」というのは、現在は工事をしていないという状況を伝えているだけです。交通規制が行われていないという意味に直結するわけではありません。

 「解除中」というのは、通行者に対して、工事をしていないから交通規制は解除しているということを伝えているのです。理屈を言えば、こちらの方が親切でしょう。

 関西の「解除中」と関東の「休工中」はどこで入れ替わるのでしょうか。歩いて観察したことによれば、愛知県・岐阜県あたりは2つが微妙に入り混じっていました。関西に入れば「解除中」です。

 ただし、これは、2008年~2010年頃の状況です。10年経てば、その勢力範囲にも変化が現れているかもしれません。

 方言は、主として話し言葉の世界のことです。地域による差を認識することがあります。一方、一見して全国的に差がないように見える共通語にも、地域による使い方の差があるということを認識しなければなりません。書き言葉や共通語を、東京の視点だけで見ることは正しくないということに気づかなければなりません。

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