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2019年1月14日 (月)

言葉の移りゆき(268)

「コーチ」という言葉

 

 運動競技などには、監督やコーチがいます。競技を指導する中心に監督がいて、コーチはそのもとで具体的な技術を指導する人だろうと思っていました。プロ野球にはピッチングコーチやバッティングコーチなど、細分されたコーチがいます。

 次の記事を読んで、コーチは、監督とは異なる目的を持った人であるように思いました。

 

 スポーツ競技のコーチは、指導者として自ら習得した技術を選手に教えるというイメージが強い。しかし「コーチに必要なのは教えることではなく、対話によって目標や実現可能性について、本人が考える機会をつくり、気づきを与えることだ」と、コーチング専門会社コーチ・エィの研究所に勤める藤崎育子さん。

 コーチ(coach)は馬車が語源。馬車は乗っている人を目的地まで送り届けるのが役目だ。そこから、目標達成を促し支援する人をコーチと言うようになった。近年、スポーツ選手に限らず、コーチをつける経営者が増えているという。

 (朝日新聞・大阪本社発行、20181128日・夕刊、3版、7ページ、「ことばのたまゆら」、前田安正)

 

 この文章は、相手に話を聞いて質問するのがコーチの役割だ、という方向に話が展開していきます。その考えは、コーチの役割の一部を強調した論であるのかもしれません。けれども、国語辞典は「コーチ」のことをどう説明しているのか、気になってきました。国語辞典の記述を列挙します。

 

 『新明解国語辞典・第4版』  ①指導すること。②(運動競技などの)指導者。監督。コーチャー。

 『三省堂国語辞典・第5版』  〔競技に出る選手やチームの〕指導をする・こと()。監督。コーチャー。

 『明鏡国語辞典』  運動競技の技術などを実地に指導・助言すること。また、その人。

 『現代国語例解辞典・第2版』  ①運動競技の技術を指導したり教えたりすること。②コーチャー。

 『岩波国語辞典・第3版』  スポーツの技術などを指導すること。また、その人。コーチャー。

 『広辞苑・第4版』  ①競技の技術などを指導し訓練すること。②コーチする人。コーチャー。

 

 すべての辞典に共通するのは「指導」という言葉です。指導する内容は、競技の技術であるようです。

 「監督」と同義であると記している辞典があるのが気になります。小さなチームでは監督もコーチも一人で兼務することがあるでしょうが、監督とコーチの両者がいる場合の区別(言葉の上での違い)は何なのでしょうか。説明がありません。

 ひとつの辞典を除いて、「コーチャー」と同義であると記していますが、これも気になります。「コーチャー」は、野球の場合では、1塁ベース、3塁ベースの横の区画にいて、走者(や打者)に指示を与える人のことを言いますが、他の競技ではコーチもコーチャーも同じものを指すようです。それでは「コーチ」「コーチャー」という2つの言葉が必要ではないということになります。

 「コーチ」という言葉は、わかったつもりで多くの人が使っていますが、国語辞典の世界では、まだよくわからない言葉(使い方・用例などがしっかり確立していない言葉)なのではないでしょうか。

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