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2019年2月 3日 (日)

言葉の移りゆき(288)

オノマトペについての疑問

 

 オノマトペについて書かれている記事を読みました。いささか納得できませんので、そのことについて書きます。

 記事は、こんなふうに書かれています。

 

 「太陽がジリジリと照りつける」「ドアをガンガンたたく」。「ジリジリ」などの擬態語や「ガンガン」などの擬音語を総称してオノマトペと言う。この語源はフランス語だ。オノマトペをうまく使うと、硬い文章が軟らかくなる。 …(中略)

 「へたる」の「へた」がもとになって「へたへた」「へったり(古語)」。濁音や半濁音に変えて「べたべた」「べたり」「ぺたん」「べたっ」「べたー」などと、反復したり「り」「ん」「っ」「ー」などをつけたりして、たやすく表現を増やせる。

 「日本国語大辞典」(小学館)には、約50万のことばが載っている。そのうちオノマトペは1割ほど占める。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年1月30日・夕刊、3版、7ページ、「ことばのたまゆら」、前田安正)

 

 「オノマトペをうまく使うと、硬い文章が軟らかくなる」という表現は正しいのでしょうか。例えば、「太陽が照りつける道を歩く」と言うだけでは具体的な姿は浮かんできませんが、それを「太陽が照りつける道をさっさと歩く」「…よろよろと歩く」「…ぐったりして歩く」「…ふうふう言いながら歩く」などと言うと、歩く姿が現実味を持って迫ってきます。オノマトペの効用は、〈硬い-軟らかい〉という対比ではなく、〈抽象-具体〉という対比になるはずです。

 具体例として挙げられている言葉の関係が、実に不思議な書き方になっています。

 「へたる」は、疲れて倒れるとか、尻をつけて座るとかの意味です。「へたへた」は、力が抜けて急に倒れ込む様子を表す言葉です。けれども、「へたる」の「へた」がもとになって「へたへた」「へったり」が生まれたというのは検証されているのでしょうか。「へたへた(する)」から「へたる」という動詞が生まれたのではないのでしょうか。

 「へったり(古語)」という注記も読む人を迷わします。まるで、現代語がもとになって古語が生まれたような書き方です。「へたる」「へたへた」「へったり」などの言葉は、浄瑠璃や歌舞伎、滑稽本、日葡辞書などに記録されている言葉です。「へったり」だけが古語というわけではありません。

 「日本国語大辞典」に載っている言葉の1割ほどがオノマトペだというのは、その辞典を使っている者として、まったく実感がありません。この数字は正しいのでしょうか。何らかの典拠を示してほしいと思います。

 小野正弘編『日本語オノマトペ辞典』(小学館)は、帯に「日本最大の4500語を収録」と書かれています。この詳しい辞典でも、そのような数字です。『日本国語大辞典』が5万語も集録しているようには思えません。二つの辞典の、オノマトペの定義が異なるというのでしょうか。

 

 私は昨年、このコラム「ことばのたまゆら」の誤りを指摘しました。そのコラムが間違っていたということを認めて、1回分のコラムが誤りの訂正に費やされました。今回も同様のことでなければ幸いであると思います。

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