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2019年2月11日 (月)

言葉の移りゆき(296)

懐炉と歯磨き粉

 

 子どもたちが「かいろ」という言葉を国語辞典で引いたとき、違和感を持つのではないかと思います。かいろ、つまり寒いときに衣類に貼り付けたりして使うもののことです。

 

『三省堂国語辞典・第5版』  衣服の内がわに入れて、からだをあたためる道具。

『新明解国語辞典・第4版』  衣服の内側に入れ、からだを暖める道具。

『現代国語例解辞典・第2版』  懐などに入れて体を温める器具。

『明鏡国語辞典』  衣服の内側に入れて体をあたためる携帯用の器具。

 

 違和感というのは、このように小さくてやわらかいもののことを「道具」や「器具」と言うのだろうかということです。「道具」や「器具」の定義が気になります。

 かいろは「懐炉」ですから、かつては道具・器具でした。国語辞典のこれらの説明は、例えば白金懐炉のようなもののことを説明していて、現在、主流となっているペッタンコのカイロのことに気づいていないのではないかと思えるほどです。『岩波』は、旧来のものに限った説明をしています。

 

『岩波国語辞典・第3版』  衣服の内側に入れて体を温める道具。金属製の小箱で、特殊な灰揮発油を燃料とする。

 

 どういう物体に変化をしても、「懐炉」という言葉は生き続けてほしいと思います。けれども、「道具」「器具」という説明は時代遅れのように感じます。

 

 話題が変わります。次は「歯磨き粉」です。

 幼いときのことを思い出すと、歯磨き粉は、正真正銘の粉でした。ゴホンと咳をすると、缶に入った粉が吹き飛んでしまうようなものを使いました。今は、粉を練ったものがチューブに入っています。でも、やっぱり「歯磨き粉」と言いたいのが私の気持ちです。

 こんな記事がありました。

 

 虫歯や歯周病の予防、歯の美白、口臭の軽減……。ドラッグストアの棚にはさまざまな特徴をアピールする商品が並び、目的に合った歯磨き粉が選べます。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年1月19日・朝刊、13版、9ページ、「きりとりトレンド」、辻森尚仁)

 

 見出しにも「歯磨き粉」という文字が使われています。「歯磨き」ではなく「歯磨き粉」であるのが嬉しいのです。

 ところで、上にあげた5種の国語辞典は、すべて、「歯磨き」の見出しだけで、「歯磨き粉」はありません。歯磨きのことを、粉状またはペースト状の洗剤というように説明はしていますが、「歯磨き粉」という言葉は省かれてしまっています。「歯磨き」というのは用途・作用などに注目した言葉です。もの自体を表す「歯磨き粉」が消えてしまったのは寂しいことです。

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