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2019年2月13日 (水)

言葉の移りゆき(298)

東京ローカルを日本全体に押し広げる

 

 NHKラジオ第1放送に「ラジオ深夜便」という番組があります。毎日、持ち回りで担当アナウンサーが変わるのですが、週に1日だけ関西発ラジオ深夜便があって大阪局が担当しています。それ以外にも月に1度か2度ぐらい仙台発とか岡山発とかの地方局の担当があります。

 この番組の冒頭に担当アナウンサーの日常報告のようなものがあるのですが、「渋谷の駅からNHKに来るまでの間に、こんなものを見ました」とか、「渋谷の交差点は…」とか、「渋谷の街角では…」とか、「渋谷の空模様は…」とかいうように、渋谷の話が多いのです。アナウンサーも一人の人間ですから、渋谷での見聞が多いのは当然でしょう。

 1週間7日のうち6日間を東京局で独占しているのですから、こういうことになります。そして、そういうことに何の疑問も感じていないようです。毎日、全国持ち回りにしましょう、と言っても、鼻先でフフンと笑われるだけだけでしょうね、きっと。

 総合テレビの「シブ5時」などというのは番組名にまで露骨に現れています。首都圏の人は何とも感じていないのでしょうが、他の地域の人に対する配慮が根本的に欠けているのです。

 新聞も同じです。東京で書いた記事が全国に流されます。政治・経済がけでなく、文化に関わることも東京一極集中です。こんな文章がありました。

 

 書棚の奥からひょいと出てきた「渋谷語辞典2008」。この本は「渋谷に生息する若者たちが日常的に使っているコトバ《渋谷語》を紹介する本です」とある。大きく「ギャル語・略語」「KY語」「ネオ漢字」の3ジャンルにわかれている。 …(中略)

 渋谷に生息する若者は、新しいコトバを発信しながら、優しいフォローも忘れない。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年1月23日・夕刊、3版、6ページ、「ことばのたまゆら」、前田安正)

 

 なぜ今頃になって「…2008」という本を話題に持ち出したのか理解できませんが、渋谷から発した言葉が日本全体を左右しているような言い方になっています。「キチョる」という言葉や、「神」や「民」という表現が渋谷から発信されたように書いてありますが、事実はその通りなのでしょうか。「…2008」という本は、その当時に渋谷にいた若者も、たまたま使っていたというだけなのではないでしょうか。

 東京にいる人間は、渋谷が若者の街であるから、若者語も渋谷から発信されていると思い込み、そしてそれが全国の人を導いているかのような錯覚を強く持っているのではないでしょうか。

 東京人の視野は意外に狭く、自分たちが日本の代表だというような誤解を心の奥底に持っているように感じます。渋谷という東京ローカルを、日本の中心だというように誤解して、それを日本全体に押し広げようとするような愚挙は、そろそろお終いにしませんか。

 放送や新聞の世界はずいぶんと思い込みの強い世界であるようです。地方分権は政治や経済だけのことではありません。

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