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2019年2月25日 (月)

言葉の移りゆき(310)

文化庁の国語世論調査は、話し言葉を軽視していない

 

 文化庁が継続して、国語に関する世論調査を実施しています。

 たとえば、5年前の新聞記事を引用します。

 

 例年通り、言葉や慣用句の使い方も調べた。「噴飯もの」を、本来の意味の「おかしくてたまらないこと」で使う人は19・7%で、「腹立たしくて仕方ないこと」と考える人が49・0%と半数近くもいた。

 また、激しく怒ることについて本来は「怒り心頭に発する」と言うところを「怒り心頭に達する」と使う人が67・1%もいた。 …(中略)… 同庁によると「いくつかの言葉は経年で調査していて、結果が報道されると学校で問題が出されたり、酒の席の話題になったりして、本来の意味が広がるようだ」という。

 (朝日新聞・大阪本社発行、2013年9月25日・朝刊、13版、36ページ、藤井裕介)

 

 記事には他の言葉や慣用句についても書かれていますが、上の例だけでも、いろいろなことを考えさせられます。

 書き言葉も変化していくでしょうが、話し言葉も同様に変化しています。テレビは映像になるものに価値を置き、国語辞典もカメラなどで記録できるものを重視しています。それでは、話し言葉の変化を忠実に追うことはできません。文化庁の後追いはできても、国語辞典がリーダーシップを発揮することはできません。

 カメラに記録したものと同等以上の数量を、話し言葉からも記録して、その変化の様子を国語辞典に反映させるべきでしょう。例えば、同じ言葉であっても、発音が変化することがあります。それを「訛り」とか「汚い発音」とか「地域的な特徴」とかの説明で片付けてはいけません。四ツ仮名の消滅の過程をきちんと記録した国語辞典などはないでしょう。関西の言葉遣いが、東京中心の国語辞典の影響を受けて話し言葉の語彙がどのように変化しているかなどということは眼中にないでしょう。

 東京でどのような新しい言葉が使われ始めているかということ、その一点に関心を持っているのが国語辞典編纂者の姿勢ではないでしょうか。

 記事にある「結果が報道されると学校で問題が出されたり、酒の席の話題になったりして、本来の意味が広がるようだ」というのは調査の効用です。工夫すれば、国語辞典もそのような働きをすることができると思います。

 かつての雑誌『言語生活』には、読者の投稿を中心にした「目」というページがありました。「耳」というページもきちんと設けられて、「目」と「耳」は同じ重さになっていました。その姿勢には、学ぶべきことが、たくさん含まれています。

 時代の先端を走る国語辞典も必要であるのかもしれません。しかし、同時に、後になってから資料としての価値を認められるような国語辞典を作って、残してほしいと思います。流行語の資料ではありません。国語の変化を跡付けられるような資料です。

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