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2019年3月 5日 (火)

言葉の移りゆき(318)

自然と笑みがこぼれること

 

 何とはなしに、自然と笑みがこぼれてくることがあります。そんな様子を何と表現しますかと尋ねた場合、「それは、自然と笑みがこぼれる、だろう」という答えが返ってきても、しかたがありません。

 けれども、それを端的に表す言葉があります。関西の言葉ですが「わらける」です。笑けるという一語の中に、動詞と、自発の意味の助動詞とが一体となったような感じが漂います。

 中学校の教員として、生徒との交流を描いたエッセイの中に、この言葉が出てきました。筆者は大阪府の出身で、赴任したのは京都府の日本海側、丹後の中学校です。

 

 講演自体は、人前で話すことに慣れていない妹は緊張しまくっていたし、私は自分の妹が話していることがおかしくてわらけてしかたなかったし、生徒たちは、妹が施設でのことを一生懸命説明したのに、「先生は子どもの頃どんなお姉ちゃんやったん?」とか、「彼氏はおんの?」とかしょうもない質問しかしなかったし、うまくいったかどうかは不明だ。

 (瀬尾まいこ『ありがとう、さようなら』、メディァファクトリー、2007年7月7日発行、162ページ)

 

 ありがたいなあと、一生懸命メッセージを読んでいたら、生徒は「それ一応お守りやで、あんまり中身出したら効き目切れるで、しまっておかな」と言う。なんのためにメッセージ書いてん!と笑けてしまうけど、それ以来ちゃんと大事にお守りを持ち歩いている。

 (同書、166ページ)

 

 「わらけて」と「笑けて」、漢字書きと仮名書きとになっていますが同じ言葉です。『日本方言大辞典』に「わらける」の見出しがないのが残念です。

 『都道府県別・全国方言辞典』(三省堂発行)には、京都府の項に「わらける」があって、「つい笑ってしまう」とあります。大阪府の項には「わらかす」があって、「笑わす」とあります。けれども、そんな府県の区別はなく、関西では「わらける」も「わらかす」も使っています。

 「わらかす」は、共通語では「わらわす」です。けれども、「わらける」を一語で表す共通語はないでしょう。「わらえる」が近いのかもしれませんが、「わらえる」は可能の意味が強く出てしまう言葉のように思います。

 共通語にない言葉で、各地にふさわしい言葉があったら、それをどしどし共通語に取り入れましょう、というのが私の意見です。「わらける」の、頬が緩んでくる雰囲気は、共通語に取り入れて、すぐに使えそうな言葉です。

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