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2019年3月11日 (月)

言葉の移りゆき(324)

「外販」という言葉

 

 販売というのは、商売として品物などを売ることです。当然のことですが、売るのは外に向かってです。だから、「外販」という言葉を見たとき、それとは違った、特別の意味が込められているのかと思いました。

 例によって、見境もなく新しい言葉遣いをする新聞見出しに、それがありました。

 

 自動運転技術トヨタ外販へ / 標準化 開発加速ねらう

 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年1月9日・朝刊、13版、6ページ、見出し)

 

 本文には、「トヨタ自動車は7日(日本時間8日)、開発中の自動運転技術を他社の車など外部に提供する考えを明らかにした。」とあります。この記事の中には、「業界の中にも提供できれば」とか、「自社の技術を広く使ってもらうことで技術を標準化し」とかの表現はありますが、「売る」とか「販売する」とかの言葉は使われていません。「外販」は見出しだけが突出した表現をしているという感じです。

 実際には、無償提供ではないでしょうから「販売」になるのでしょうが、販売は他社(つまり、外)に向かって行うことです。その「販売」を「外販」と言う理由が理解できません。

 「外販」と言うのなら、対語として「内販」という言葉があるのでしょうか。「内販」という言葉を聞いて、思い浮かぶのは、自社の従業員向けの(優待的な)販売ということですが、そんな言葉を聞いたことはありません。

 「外販」を載せている国語辞典はほとんどありませんが、例外的な『三省堂国語辞典・第5版』は次のように説明しています。

 

 〔 ←外交販売〕会社・団体などを回って販売すること。外売り。外売。

 

 この国語辞典の説明に従えば、トヨタは、ご用聞きや売り込みをするというようなイメージになります。

 この国語辞典には、「外交販売」という見出し項目はありません。また、「外売り」の見出し項目はなく、「外売」という見出し項目には、「外販」とだけ説明しています。

 「外売り」というのは、正規の販売ルート以外で販売するというイメージがないわけではありません。

 ともかく、「外販」「外売り」「外売」などの言葉は、一般的にはまだ使われていないような言葉です。

 新聞が勇み足のように使ったから、国語辞典編纂者が拾い上げて辞典に載せる、それによって一般の人も使うようになる、というサイクルは、日本語にとって望ましいことなのでしょうか。新聞の勝手な表現が、そのうちに、社会に定着していくという悪循環はやめてほしいと思います。

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