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2019年4月 1日 (月)

言葉の移りゆき(345)


新元号の「令和」


 5月1日からの新しい元号「令和」が発表されました。これまでは中国古典に由来する元号が多く、国書に由来するものは初めてであると言われています。日本語日本文学を愛好する者としては、万葉集が出典であるのは嬉しいことです。
 ところで、次の記事は、正確であるとは言えません。


 万葉集にある和歌「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす」(書き下し文)から二文字をとった。 …(中略)…
 安倍晋三首相は記者会見して典拠を万葉集とした理由について「我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書だ」と説明した。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年4月1日・夕刊、3版、1ページ)


 我が国に現存する最古の歌集である「万葉集」が典拠であることは間違いありませんが、引用されている部分は「和歌」ではありません。
 これは、万葉集巻五に、「梅花の歌三十二首 并せて序」とあり、「天平二年正月十三日に、帥老の宅に萃まりて、宴会を申ぶ。時に、初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫らす。……」と続く説明文(詞書き)の一部分です。
 天平2年1月13日(太陽暦に直すと2月8日)、大伴旅人の邸宅に集まって宴会が繰り広げられたということであり、この詞書きの後に、815番から846番まで(国歌大観番号)の歌が並んでいるのです。815番以降が「和歌(短歌)」であり、引用部分は「和歌」ではありません。
 官房長官の記者会見でも、首相の記者会見でも、「詞書き」であるということは述べられなかったように思いますが、引用部分が和歌(短歌)のリズムを持っていないことは明らかです。
 このような記事の誤りを新聞はどのように訂正するのか(あるいは無視するのか)、関心のあるところです。
 たぶん、翌日の記事からは、「令和」が和歌の一部から採られたとは書かないで、「詞書き」から採られたと表現することでしょう。けれども、それによって、第一報の記事の誤りがかき消されるわけではありません。間違ったことは潔く認めて訂正するのがよいと思います。


 さて、新聞は、興味本位の予想記事を載せ続けましたが、「令和」を予想した人はいませんでした。私にとっても「令」の文字は意外でした。
 「令」という文字には、「よい。りっぱな。すぐれた」というような意味の他に、「命じる」、「君主の命令」、「のり・おきて」などの意味もあります。
 「令」は、漢文の句法としては、使役をあらわす文字としても使われます。「…をして、…せしむ」という読み方をする表現です。それに従えば「令和」は、なごやかにさせる、という意味にもなります。「なごやかにさせる」という意味は望ましい表現ですが、漢文の専門家にとっては、語法を表す用字のように見えるかもしれません。

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