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2019年4月27日 (土)

言葉の移りゆき(371)

カギカッコを省略した言葉遣い

 例えば「美しく」という言葉は、形容詞の連用形であって、名詞であるはずはありません。けれども、話し言葉の中では一見、名詞のように感じられるように言うことがあります。話し言葉には、カギカッコも句読点も付けません。話し方の抑揚や、間の取り方などで、そこにカギカッコや句読点があることを知らせるだけです。
 そのような表現方法を書き言葉にも反映させることがあります。
 こんな文章を読みました。


 渋谷のバス停で目にした広告。〈美しくを、変えていく〉とあります。どうやら、美顔器というものも広告のようです。
 「美しい」という形容詞を名詞形にすると「美しさ」になります。「美しさを保つ」と言いますね。ところが、20年ほど前から「美しい」のままで名詞にする例が出てきました。たとえば「おいしいと美しいを届けたい」のように。 …(中略)…
 「~く」の形を名詞として使っています。こういう例はあまり見かけませんでした。名詞形の新しい作り方です。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年3月30日・朝刊、be3ページ、「B級言葉図鑑」、飯間浩明)

 「おいしいと美しいを届けたい」の「美しい」は名詞でしょうか。そんなはずはありません。「おいしい(品物)を届ける」とか、「美しい(商品)を届ける」ということでしょう。あるいは、「美しくなるための品を届ける」ということかもしれません。言葉の省略を無視して、そんな表現を、一足飛びに名詞とするのは、文法的に正しいとは思えません。
 最近は書き言葉においても、カギカッコを省略した表現が見られます。カギカッコを補えば〈「美しく」を、変えていく〉と書くのですが、その「美しく」を名詞と考えるのは無理です。
 「美しくを、変えていく」という表現と、「美しさを、変えていく」という表現とは、同じことを言っているのでしょうか。明らかに違います。
 「美しく」が名詞化した言葉であるというのなら、意味は「美しさ」と同じでなければなりません。
 広告コピーの使い方を、即座に、文法的な事柄の変化であるように捉えるのは、正しくありません。こんなことを取り入れた国語辞典を作られては困ります。

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