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2019年5月24日 (金)

言葉の移りゆき(398)

言葉を短縮することで、言葉が軽く扱われている


 流行語によって平成の時代を振り返る記事がありました。その連載で、女性の人権をテーマにした回に、次のようなことが書かれていました。
 1989年、セクシャル・ハラスメントが流行語になって、それを巡る訴訟があったということを述べて、原告の晴野まゆみさん(61)の言葉を紹介しています。


 晴野さんは、ネット社会になり、セクハラ被害者へのパッシングがひどくなったと感じる。セクハラやパワハラなどと言葉を短くすることで、言葉が軽く扱われていると懸念。「人権侵害という認識と距離が出てしまう。人権とは何か、もう一度考える必要がある」
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年4月23日・夕刊、3版、8ページ、「平成代替わり 流行語でたどる」、伊藤繭莉)

 「言葉を短くすることで、言葉が軽く扱われている」という懸念にはまったく同感です。そのような傾向を牽引しているのは新聞や放送です。きちんと「セクシャル・ハラスメント」「パワー・ハラスメント」という言葉を使うべきです。記者はきちんとした言葉を使っているとしても、整理部が短い言葉にしてしまうという事情があるのかもしれません。見出しの文字は少なくするというのは原則かもしれませんが、何でも略してしまえという方針は間違っていることに気づかなければなりません。
 このことは、私は、この連載で何度も指摘してきました。けれども改まるどころか、ますます酷くなっていると感じています。


①「あおり運転」摘発1.8倍 / 昨年 ドラレコ映像も活用
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年5月23日・朝刊、14版、1ページ、見出しの言葉)

②プラに印刷 まるで金属 / 特殊技術、中小が開発
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年5月23日・朝刊、14版、6ページ、見出しの言葉)

③モラハラ=心への暴力 見えない支配 / 無視や嫌み…話し合えない夫 / 「私が悪い」自分責めうつ病に
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年5月23日・朝刊、13版S、23ページ、見出しの言葉)

 ある日の新聞の見出しの一部です。①の「ドラレコ」はドライブレコーダーです。ドラレコなどという発音は下品きわまりない発音ですが、そんなことへの配慮はありません。言葉が短くなれば、それでよい、あとは知ったことではないという姿勢です。②の「プラ」はプラスチックです。
 ③の「モラハラ」は配偶者など親密な関係の中で起きる暴力の中で、「モラルハラスメント」と呼ばれる精神的な暴力のことだそうです。比較的に新しい言葉だと思いますが、略語で登場です。「モラルハラスメント」という言葉の重みは、「モラハラ」と略すことで軽くなり、日常茶飯事の出来事かと思われるような感じになります。「言葉を短くすることで、言葉が軽く扱われている」ことを、新聞が実践しているのです。

 元の文章「平成代替わり 流行語でたどる」は、その文章全体の末尾を引用しました。「…と懸念。」などという尻切れトンボの文の次に、「 」で引用文が続いて、それでお終いという、尻切れトンボの二重奏です。晴野さんの言葉を軽く引用しただけの印象で文章全体が終わっています。NIEとして使えば、失礼な文章の見本、日本語の原則を無視した文章の見本ということになります。
 記者はこんないい加減な文章を書いていないはずです。もし、書いていたのなら、「どうせ、このような形に加工されるのだ」ということを知っていて書いたのでしょう。新聞記者は本質的にこんな文章を書かないと思います。すべては整理部の仕業だろうと思います。そして、そんな表現が新聞紙上を跋扈しているのです。情けないことです。

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