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2019年5月31日 (金)

言葉の移りゆき(405)

「訳ありの」は、褒め言葉か貶し言葉か


 ものを売るときの言葉は、その売り上げに影響をします。たいていは、良い品物であることを宣伝する言葉が使われますが、時には、問題をはらんでいる品物であることを自称する場合もあります。
 「訳ありの品」と言われたときは、格別の理由をそなえた絶品(褒め言葉)と判断するでしょうか。それとも、何かの欠点を持っている劣等品(貶し言葉)と判断するでしょうか。
 『三省堂国語辞典・第5版』は、「わけあり」を見出しにして、次のように説明しています。


 特別な事情があること。「- の仲・今度の異動はどうも - だ」

 この辞典の用例から判断すると、良い・悪いの評価を抜きにして、通常の様子とは違っているという意味が強く出ているように思います。むしろ、その事情を直接的に表面に出さないで述べようとしているような傾向を感じます。
 買う側からすれば、「訳ありの美味しさ」とか「訳ありの便利さをそなえた品」とか言われても、具体性が乏しいと感じるでしょう。
 逆に、「訳ありだから……値引きして売る」となると、「訳」の内容しだいでは、買うことを検討してみようという気持ちになるかもしれません。
 それにしても、「訳あり」という言葉だけでは、「訳」の内容が説明されていないのです。それが宣伝文句になるのが不思議です。

 ちょっと古い記事ですが、「買いたくなる食品の売り文句」というランキング記事がありました。(朝日新聞・大阪本社発行、2015年5月30日・朝刊、be2ページ、「beランキング」、中島鉄郎)
 そのランキングは、1位「産地直送」、2位「新鮮な」、3位「季節限定」、4位「無添加」、5位「旬の」……となっていて、15位に「訳ありの」が入っていました。これは「訳ありだから……値引きして売る」という貶し言葉の文脈ではなく、褒め言葉として宣伝している場合のように感じられます。
 「訳あり」の「訳」の内容が説明されていないのと同様のものとしては、このランキング20位までに並んでいる「新鮮な」「天然の」「とれたて」「こだわりの」「老舗の」なども同様かもしれません。「無添加」「無農薬」「ヘルシー」などもどこまで信用できるか、わからないのかもしれません。
 この記事には、「信用できない」言葉ランキングというのも載っていて、1位「秘伝の」の他に、「本格派」「絶品」「こだわりの」「天然の」「訳ありの」「無添加」「無農薬」「本場の」「厳選素材」と続くと書いてあります。
 「買いたくなる」ランキングにも、「信用できない」ランキングにも、同じ言葉が入っているのです。売る立場に立つ人は、言葉遊びはやめた方がよいと考えるべきであるのかもしれません。

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