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2019年5月11日 (土)

言葉の移りゆき(385)

「普通」という言葉は大きな問題をはらんでいる

 「普通」という言葉は、ごく易しい言葉ですから国語辞典で確かめるまでもありません。けれども、この言葉の使い方は、さまざまな問題を含んでいるようです。
 こんな文章を読みました。


 思春期の子どもに話しかけても、フツーフツーと返してくる。実はこれ、本人は「普通」と言っているつもりで、本当は「不通」と言っている。つまり、いろいろあって複雑なのだけれど、どうせこの人はわかってくれないと諦めているときに、人は「普通」と言う。そう、「普通」は心を隠すために使われる。
 それだけじゃない。「普通」は暴力的な言葉にもなる。「普通はね」と言うとき、そこには「お前は普通じゃない」という意味合いが滲んで説教になりがちだ。生き方が多様化している現代、本当は何が「普通」かわからないのだけど、自分の考えを押し付けるときに「普通」が使用される。
 (信濃毎日新聞、2019年4月23日・朝刊、5ページ、「心辞苑」、東畑開人)

 「普通」という言葉を小学生向けの『チャレンジ小学国語辞典・第4版』で引くと、次のように書いてあります。


 ①〔名詞〕ほかと比べて、とくに変わっていないこと。
 ②〔副詞〕いつも。たいてい。

 そして面白いことに、「使い方」として、「②は、ふつうかな書きにする。」と書いてあります。その言葉自体を、説明文に取り入れているのです。
 「ほかと比べて、とくに変わっていないこと。」というのは、平均的なものや、ことであるということです。
 記事の筆者は、その「普通」が、自分を表現したり、相手に向かって投げかけられたりしたときに、特別な意味が込められるということを指摘しているようです。
「普通」というのは、他者に言うほどのものをそなえていないということですから、他者と心を通わせることを拒否するときに使われやすいということはよくわかります。
 「普通は……だ」という言葉の裏に「お前は普通じゃない」という意味が込められているとすれば、これも心の通わせ合いに支障をきたす表現になります。
 自分を平均的なものだと言ったり、相手を平均的なものでないと言ったりするときに、言葉の意味以上に、大きなメーセージを発していることになるのです。
 国語辞典の説明としては「ほかと比べて、とくに変わっていないこと」というのが成り立つとしても、現実に生きている人ひとりひとりは、それぞれが異なった存在です。それを「普通」という言葉が押し隠してしまうところに、コミュニケーション上の問題があると言うことでしょう。
 「普通」という言葉は、生活上の様々な場面で使われます。けれども、人間の内面(や、外面も加えて)のことを説明するのに使うことは、慎重を期す必要があるということでしょう。

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