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2019年6月24日 (月)

言葉の移りゆき(429)

新聞の校閲の仕事


 新聞社は毎朝・毎夕発行する新聞紙面について校閲の作業を行っています。その校閲に関して、ひとつの記事を例にして、考えてみます。記事の冒頭の部分からの引用です。


 東京・昭和通り。銀座東7丁目交差点には、大きな歩道橋が架かっている。通称「ときめき橋」。その上からは、西側の高いビルの隙間から東京タワー、北東には東京スカイツリーが見える。
 二つの電波塔には54年の差がある。この間、東京は縦に縦に伸びていった。智恵子抄ではないけれど、空はどんどん狭くなっていった。1950年代に建てられたビル群は老朽化し、2020年を前に解体され再開発が進む。東京は2度目の五輪を迎えようとしているのだ。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年5月18日・夕刊、3版、5ページ、「あのとき 1958 東京タワー」、前田安正)

 筆者は、朝日新聞メディアプロダクション校閲事業部長と記されています。軽く読み進めれば、何の問題もない文章のようです。けれども、気になることはいくつもあるのです。
 校閲というとすぐに頭に浮かぶのは、毎日新聞校閲グループが書いた『校閲記者の目』(毎日新聞出版、2017年9月5日発行)という、示唆に富む本です。この本からは、新聞記事の内容の誤りにとどまらず、用語・用字の適切さや、誤解を招きそうな表現などについて、真剣に向き合っている様子が読みとれます。
 さて、引用した文章のはじめの3つの文は、新聞特有の書き方です。「東京・昭和通り。銀座東7丁目交差点には、大きな歩道橋が架かっている。通称『ときめき橋』。」というのは、あまりにも唐突な書き方です。体言止めが続きます。日本全国の読者に向けて、東京の地理を熟知していることを前提にした書き方です。東京人によって書かれる文章の典型です。
 「西側の高いビルの隙間から東京タワー、北東には東京スカイツリーが見える。」という表現からは、東京タワーは真西にあるかのような印象を受けますが、実際には南西方向です。毎日新聞の校閲部なら見逃さないだろうと思います。スカイツリーを北東と書くからには、東京タワーは南西と書くべきでしょう。
 もし高村光太郎の詩集を読んでいない人は、「智恵子抄ではないけれど、空はどんどん狭くなっていった。」という表現から、「智恵子抄」には、どう書かれていると想像するでしょうか。智恵子は東京の空は狭いと言ったのだろうという想像に行き着いてしまいます。正しくはありません。
 「1950年代に建てられたビル群は老朽化し、2020年を前に解体され再開発が進む。」という表現は、実際の姿がよくわかりません。東京には1950年代に建てられた「ビル群」が圧倒的に多いのでしょうか。そしてその「ビル群」がほとんど解体され再開発が進められているのでしょうか。この言葉通りであれば、東京の町は解体・建設中のビルが目白押しということになります。
 文章は、書く人が自由に綴ってよいのですが、読者への影響もじゅうぶん考えなければならないことも当然です。

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