« 言葉の移りゆき(445) | トップページ | 言葉の移りゆき(447) »

2019年8月 9日 (金)

言葉の移りゆき(446)

「店前」は「みせさき」と読むべきか


 文章を読んでいると、その文章の筆者の考えに釣り込まれて、信じてしまいそうなことがあります。写真まで添えられると、その効果は増大します。今回は、「店前」という熟語をどう読むかという話題です。
 こんなふうに書かれていました。


 観光地のみやげ物店。何か食べながら店をのぞくお客が多いらしく、注意書きが出ています。〈店前での飲食はご遠慮ください〉。
 もっともだと、と思いつつ、私は例によって細かいところに注意が向きます。「店前」は何と読むのか。「みせまえ」? 「てんぜん」? …(中略)…
 「店前」は、ちょっと古風な人なら「みせさき」、若い人なら「みせまえ」と読むのではないでしょうか。読み方で年が分かる、とまでは言えないかもしれませんが。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年7月6日・朝刊、be3ページ、「街のB級言葉図鑑」、飯間浩明)

 常用漢字の音訓表にあろうとなかろうと、「前」の文字を「さき」と読むことは知っています。「弘前」などの地名もよく知られています。
 けれども、この注意書きを書いた人は、「みせさき」と読ませようとして書いたのでしょうか。場合によっては「みせさき」と読むこともできる、という程度の判断しかできません。
 この文章は、書かれた文字の読み方を推測しているのです。逆に、「みせさき」という言葉を、一般にどういう漢字で表すかということを無視しています。
 「みせさき」という言葉に、国語辞典は、どのような文字をあてているでしょうか。小型の国語辞典の『三省堂国語辞典・第5版』は、「店先」だけです。「店前」という文字は書いていません。中型の『広辞苑』には「店先」と「見世先」が、大型の『日本国語大辞典』には「店先」だけが載っています。いずれも、「店前」はありません。
 この文章の見出しは「読み方で年が分かる…?」となっていますが、そんな判断はできないでしょう。国語辞典にこの用字が載っていない限り、そんな判断は乱暴すぎると思います。

|

« 言葉の移りゆき(445) | トップページ | 言葉の移りゆき(447) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 言葉の移りゆき(445) | トップページ | 言葉の移りゆき(447) »