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2019年9月10日 (火)

明石日常生活語辞典・追記(2)

子取り


 「子取り」という言葉が方言であるのかどうか、よくわかりません。誰が聞いても意味がわかるように思いますが、「広辞苑・第4版」には、「①子供の遊戯の一。一人は鬼、一人は親、他はすべて子となって順々に親の後ろにつかまり、鬼が最尾の子を捕らえれば、代わって鬼となる。子をとろ子とろ。②産児を母体から取り出すこと」と説明されています。ここで述べるのは広辞苑に書かれているような意味ではありません。
 こんな文章を読みました。


 その頃の子供たちは、幼稚園や小学校から帰ると、往来や、町の川べりにある広っぱで、遊んでいた。親たちは夕方になると、早く家に戻れとうるさく言った。
 おそくまで外で遊んでいると「子取り」がきて、つれていかれるとおどすのだった。
 「子取り」を見たこともないのに、子供たちは、世にも恐ろしい者と信じていた。 …(中略)…
 子取りにさらわれると、サーカスに売られて、帰れないと聞かされていた。一年に一度、広っぱに来て、象色のテントを張るサーカスが好きになった私は、何とかしてサーカスにさらわれたいと、毎日、テント小屋にもぐりこんだものだった。
 (朝日新聞・大阪本社発行、2019年7月11日・朝刊、13版S、31ページ、「寂聴 残された日々・49回」、瀬戸内寂聴)

 「明石日常生活語辞典」では、「子取り」を、「子どもをだまして連れていってしまうこと」と説明しました。追加して「また、子どもをだまして連れていってしまう人」と書くべきでした。
 子取りとは、誘拐であり、誘拐犯人のことです。誘拐というような言葉を知らない、小さな子どもにでも「子取り」という言葉は、恐ろしいイメージで迫ってきます。子取りに出会った後はどうなるのか、殺されてしまうのか、サーカスに売られてしまうのか、そんなことを考えるいとまもなく、「子取り」という言葉に促されるように、すぐに自分の家に駆け込むのです。
 家の中にいても、「子取り」の恐怖はありました。「親の言うことを聞かへん子は、子取りに連れていかれるぞ~」などと親に言われると、素直にならざるをえませんでした。
 「子取り」という言葉に恐怖を感じたのは何歳ぐらいまでだったのでしょうか。せいぜい小学生の頃までだったでしょう。周囲には、実際に「子取り」に連れていかれた子はいませんでしたが、ときどき誘拐事件が新聞に載りましたから、「子取り」には現実感も伴っていました。

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