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2019年9月12日 (木)

明石日常生活語辞典・追記(4)

よろしおあがり


 食べ物を前にして座ると、祖母の「よろしおあがり」という言葉が聞こえてくるような気持ちになることが、あります。
 祖母は、座った途端に「よろしおあがり」と言ったり、「いただきます」という言葉の返事のように「よろしおあがり」と言ったりしていました。食事がすんで「ごちそうさん」と言ったときにも、「よろしおあがり」という言葉を聞くこともありました。祖母の口癖のような言葉でした。
 この言葉は、子や孫のような家族に対してだけではなく、きちんとしたお客さんが来た場合にも使っていた言葉でした。
 祖母からは聞きましたが、母の口からはこの言葉は出ませんでした。母は「どーぞ食べなはれ」、「召し上がってください」のような言葉を使っていたように思います。食後の挨拶の場合は「よろしおあがり」ではなくて、「何(なん)もなしで、すんませんでしたなぁ」というような言葉で対応していたように思います。
 こんな文章を読みました。


 「よろしおあがりっ!」
 わが家で「ごちそうさま」と手を合わせると、料理を作った妻からこう返ってくる。妻の母親は大阪生まれ。母から娘に受け継がれた柔らかなことばが、食事を平らげた至福を一段とほっこり豊かな気持ちにしてくれる。 …(中略)…
 講談師の旭堂南陵さん(65)は著書で「絶滅危惧種の大阪ことば」に認定した。
 「よろしおあがりやす」とも、「よろしゅうおあがり」とも。食べる前、食べた後、食事中に誰かが訪ねてきたときのあいさつにも使われる。食後なら、「よく食べてくれてありがとう」というニュアンス。「お粗末さま」ほどへりくだるでもなく、「おいしかったやろ」の押しつけがましさもない。 …(中略)…
 「明治生まれの母親が使っていましたね」と、武庫川女子大学の言語文化研究所長を務めた佐竹秀雄さん(67)。「由来ははっきりしませんが、自分や料理でなく、相手のしぐさや気持ちに沿っているところが関西のことばらしいですね」
 (朝日新聞・大阪本社発行、2015年5月20日・夕刊、3版、2ページ、「まだまだ勝手に関西遺産」、田中章博)

 記事に書かれている内容に、すべて同感です。しかも、「明治生まれの母親」だけでなく、年若いと思われる記者の奥さんも使っているということに感服しました。
 「明石日常生活語辞典」では、「よろしおあがり」と「よろしゅうおあがり」の2つの形をあげて、「『いただきます』や『ごちそうさま』という言葉に応えて、どうぞ召し上がってくださいという気持ちや、よく召し上がっていただいたという気持ちや、お粗末さまという気持ちなどを述べる言葉」と説明しました。
 記事にある「『お粗末さま』ほどへりくだるでもなく」というところとは異なっているのですが、「お粗末さま」という言葉を口にしないが、そのような気持ちも感じられるというほどにご理解ください。
 この「よろしおあがり」は、大阪や京都などだけでなく、広く関西で使われていたと思いますが、次第に使われなくなっていることは残念なことです。

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