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2019年10月 8日 (火)

明石日常生活語辞典・追記(30)

そばえる


 生まれてから今に至るまで同じ所に住んでいますが、「そばえる」という言葉には、郷愁を感じます。にわかに降り出す雨のことを、こんなにぴったり表現する言葉は、他に見当たらないと思うからです。空を雨雲が通過していく、そのダイナミックな動きを表現している言葉です。この言葉を川崎洋さんに告げたら、こんな文章をお書きになりました。


 天気予報が、「午後ところによりより一時雨となるでしょう」と告げた日、海で釣り舟に揺られながら、ひょいと水平線をみると、はるかなそのあたりに、黒雲がひろがっていて、水面に近く、空間が溶けているようなぐあいになっているのをみて、あそこは今雨が降っているのだな--とわかる。そんな情景を遠望することがあります。と同時にあの雨雲がまもなく、われわれの舟の上の空へやってきて、ここも、ざーっと降ってくるぞ、とわかり、雨合羽を着込んだりします。
 そんなとき、兵庫県の方で、「むこうのほうがそばえとる、そばえがもうじきくるぞ」というふうにいいます。
 (川崎洋、「母の国・父の国のことば わたしの方言ノート」、日本放送出版協会、1976年10月20日発行、132ページ)

 「明石日常生活語辞典」では、「そばえる」を次のように説明しています。

 《動詞・ア行下一段活用》 急に雨が降り出す。雨がひとしきり降って止む。「さっき・まで・ え(良)ー・ てんき(天気)・やっ・た・のに・ きゅー(急)に・ そばえ・てき・た。」■名詞化=そばえ

 また、名詞の「そばえ」も項目を設けて、説明しています。

 《名詞》 急に降り出す雨。ひとしきり降って止み、すぐに晴れる雨。「そら(空)・が・ くろ(暗)ー・ なっ・てき・た・さかい・ もーじき・ そばえ・が・ く(来)る・ぞー。」〔⇒とおりあめ【通り雨】、にわかあめ【俄雨】〕

 「そばえ」と同じものを、共通語を使って「とおりあめ」とか「にわかあめ」と言うこともありますが、それは「そばえ」と言っても通じないような人に向かって使う言葉であると言ってもよいでしょう。

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