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2019年10月10日 (木)

明石日常生活語辞典・追記(32)

ばあてがする


 共通語でいろいろな表現をしてみるけれども、どうもぴったりしたものに感じられないということがあります。それを一言で言い表す地域語があったら、共通語の文脈であっても、その地域語を使ってみたいと思うことがあります。そんな例として、川崎洋さんに話をしたら、見事な文章にまとめてくださいました。


 きょうが引っ越しという日、家の中の荷物の片付けに、てんてこまいをしている--とします。まもなく頼んでおいたトラックがくる、時はどんどん過ぎていく、さっさと事を運ばねば、と気持をせかされている。と、それが嵩じて、ふと自分はいったい今何をやっているんだ、とわけがわからなくなり、次はどうしたらいいのかという手筈を考えていたはずなのに、それが頭の中からすーっと抜けてしまっている、というような状態があるものですが、それを表現するとしたら、共通語ではどういえばいいでしょう? …(中略)…
 「あたまがぼーっとなる」
 「一瞬自分がわからなくなる空白状態」
 「カーッと頭へ血がのぼって、なにがなんだかわからなくなる」
 「すっかりあがってしまう」
 「自分が自分でないような、のぼせてぽーっとなった状態」
というようなふうに表わすしかありません。
 それをぴたりといい表わすことばが兵庫県の明石にあります。
 「ばあてがする」がそれです。
 (川崎洋、「母の国・父の国のことば わたしの方言ノート」、日本放送出版協会、1976年10月20日発行、164ページ~165ページ)

 「明石日常生活語辞典」では、その「ばあてがする」を次のように説明しています。

 《動詞・サ行変格活用》 のぼせてしまって、しっかりとした振る舞いができずに、あわてたり、うろたえたりする。どうしてよいかわからず立ち往生したり、ぼんやりしたりしてしまう。「ばーてがし・て・ じゅんばん(順番)・を・ まちが(間違)え・た。」「ばーてし・て・ おちゃ(茶)・を・ ひっくりかえし・ても・た。」◆その場の状況や雰囲気になじめず「場に当たった」ということに由来するのか、それとも、その場で平静さを失って「場に慌てる」ということに由来するのか。ともかく、人から見ると尋常でないように見える様子であり、滑稽さも伴うのである。〔⇒うろがくる【うろが来る】〕

 「ばあてがする」はもともとは3語から成り立っています。その「ばあて・が・する」を熟した言葉にしているのです。「が」を省いて、「ばあて・する」という言い方もします。
 「ばあてがする」とほほ同じような意味の言葉として、明石では「うろがくる」も使います。「うろ・が・くる」の3語が熟したものです。
 「明石日常生活語辞典」では、「うろがくる」を次のように説明しています。

 《動詞・カ行変格活用》 のぼせてしまって、しっかりとした振る舞いができずに、あわてたり、うろたえたりする。どうしてよいかわからず立ち往生したり、ぼんやりしたりしてしまう。「いそが(忙)しすぎ・て・ うろがき・ても・た。」「さんのみや(三宮)・の・ まち(街)・へ・ い(行)っ・たら・ うろがき・て・ ほーがく(方角)・が・ わから・ん・よーに・ なっ・た。」〔⇒ばあて(が)する【場当て(が)する】〕

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