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2019年10月 4日 (金)

明石日常生活語辞典・追記(26)

えがおよし


 もうずいぶん前に鬼籍に入ってしまわれましたが、詩人の川崎洋さんは方言に強い関心をお持ちでした。方言について書かれた本を何冊も残されました。
 そのうちの一冊に『母の国・父の国のことば』という本があります。この本をお書きになるときに、私は川崎さんの取材を受けました。長い時間、お話をしました。川崎さんは録音テープをお取りになりましたから、私も同じようにテープを回させていただきました。私の部屋のどこかに、そのテープ(120分テープで3本にわたったように記憶しています)が隠れているはずです。
 全国各地の方々に取材されて一冊の本ができあがったのですが、一つの項目が2ページ程度で書かれています。うれしいことに、私が話した明石の言葉が、「えがおよし」「がみつい」「ここっちょい」「しおとろしい」「すいな」「そばえる」「どっしゃげる」「ばあてがする」「ぶてこい」「へっともない」のタイトルで載せられています。ただし、その項目の内容すべてが明石の言葉であるとは限りません。
 「えがおよし」の項目は、次のように書かれています。


 私はこれまでに、女の人をほめる三つのすてきな地域語に出会いました。
 「えがおよし」--営業笑いのそれでなく、人柄からにじみ出たにこやかさを感じさせる女の人を形容することばです。兵庫県の明石で使われています。
 「妹の方は勝気やけど、姉の方はえがおよしで落着いとる」などと評されます。漢字で書けば「笑顔佳し」です。
対象は赤ん坊から娘さんまで、広い範囲にわたっていますが、赤ん坊に限っては、「おせらしい」ということばがあって、手足を動かしたり、表情を変えたりする、あどけないかわいらしさを指しますが、「えがおよし」は、じっとしていても、そこからにじみ出てくる雰囲気のほうに重点がおかれていることばだ、ということができます。
 私は、友人、特にこれまでに知り合ったいろんな女の人の顔を思い浮かべてみるとき、つんと澄ましている顔あり、なにか一生懸命しゃべつている顔あり、うつむいている顔あり、うす笑いをうかべている顔あり、生真面そのものの顔ありで、千差万別ですが、「えがおよし」というのは、誰もがその人をその人の笑顔で自分の脳裏に思い浮かべるような、そんな女の人です。
 そういう女の人を友人に持っている男は幸せであり、恋人に持っている男はもうそれだけで他に何も望まなくていいのであり、妻に持っている男は神さまにさえ嫉妬される果報者といえましょう。ああ(!)
 (川崎洋、「母の国・父の国のことば わたしの方言ノート」、日本放送出版協会、1976年10月20日発行、56ページ~57ページ)

 この項目には、他に「うるわしか」(熊本県天草)と、「えどびんなはれ」(富山)とが短く書かれています。それが「女の人をほめる三つのすてきな地域語」だというわけです。
 ところで、この「えがおよし」の文章は、高等学校の国語教科書『新版現代国語・三訂版』(1978年3月31日改訂検定済)、三省堂発行に、「ざっく」の項目、「こうと」の項目とともに掲載されました。私も、関係者の一人として、この教科書の教師用資料に文章を書きました。
 さて、「明石日常生活語辞典」では、「えがおよし」を次のように説明しています。

 《形容動詞や(ノ)、名詞》 いつもにこにこと笑顔を振りまいている様子。また、そのような人。「おたく(宅)・の・ むすめ(娘)さん・は・ えがおよしで・ かい(可愛)らしー・なー。」◆幼児や子どもはもちろん、若い女性などにも使う。成人男子に使ってもおかしくはない。

 ちょっと素っ気ない説明になりましたが、辞書としてはこの程度にせざるをえませんでした。川崎洋さんの文章に脱帽です。

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