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2019年10月12日 (土)

明石日常生活語辞典・追記(34)

ぶてこい


「明石日常生活語辞典」が出来上がって届けられたときには、自分でもびっくりしました。この出版物を紹介してくださった新聞は「厚さ6センチ」と書いています。分厚いのです。
 厚い、分厚いという言葉を明石では使いますが、他に「ぶてこい」という言葉もあります。ただし分厚い本のことを「ぶてこい」と言わないと思います。
 この「ぶてこい」という言葉を川崎洋さんにお話ししたところ、次のような文章にまとめられました。


 考えてみると、「厚い」も「太い」も「大きい」も、ずいぶん守備範囲の広いことばです。
 「厚い」にしても、厚い紙、厚着、厚い胸、分厚い唇、厚い情、手厚い看護、厚い札束、更には厚かましい--などという意味を負わされています。
 これに比べて、兵庫県の明石のある限られた地域ですが、そこに、守備範囲は狭いながら、その代り、他と交錯しようのない、きちっとした形容詞が使われています。
 それは、布や紙などの、厚みのあるもの、厚手のものをいう「ぶてこい」ということばです。
 それも更に限定されていて、紙の場合はたとえば段ボールのように、まとめようとすれば折れてしまう材質のものには、「ぶてこい」は使いません。ラシャ地や、フェルトなど、そのボリューム感を指で感じとることができるものに対して使われます。
 なお、この「ぶてこい」のほかに、「ぶあつい」ということばもちゃんとあって、分厚い辞書--の場合は「ぶあつい」であって、「ぶてこい」辞書とはいいません。
 (川崎洋、「母の国・父の国のことば わたしの方言ノート」、日本放送出版協会、1976年10月20日発行、190ページ~191ページ)

 「明石日常生活語辞典」では、「ぶてこい」を次のように説明しています。

 《形容詞・オイ型》 やや弾力性があって、それなりの厚みがある。「ぶてこい・ きれ(布)・や・さかい・ はさみ(鋏)・で・ き(切)ら・れ・へん。」「ぶてこい・ ぼーるがみ(ボール紙)・や・さかい・ お(折)りまげ・られ・へん。」

 一つ一つの言葉には、どのような意味・用法を持つかという守備範囲があります。「ぶてこい」の守備範囲は狭いのですが、それがかえって、独特の意味や感じを伝えてくれます。
 広い守備範囲を持つ言葉は必要ですが、一方で、狭い守備範囲を持つ言葉も重要な働きをします。その言葉を使うことで、意味合いが如実に伝わることになるからです。

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